ミャンマーのシステム会社最大手エース・データ・システムズと組み、日本向けオフショア開発を進めているのが大和総研だ。
エースの社内にオフショア開発センターを設置。エースの全社員の4割程度にあたる90~100人の技術者を大和総研向けに確保し、教育してきた。既に、伝票を電子化するシステムや、伝票データ管理システムなどを開発できるまでに成長している。いずれも大和証券グループ内で使うためのシステムがメインだったが、2012年度中には証券取引や銀行決済など金融機関の業務システムも開発し始める方針だ。
システムの日本からの輸出を目指す
大和総研がオフショア開発の現地法人を全額出資で作らなかったのは、現地向けのシステム開発についてもエースと共に手掛ける計画だからだ。大和総研は4月、東京証券取引所と組み、ミャンマー中央銀行とミャンマーの証券取引所設立に関する覚書締結で合意している。証券取引所システムの日本からの輸出と、現地での導入サービス受注を目指す。
さらに大和総研は、NTTデータや富士通と組み、国際協力機構(JICA)からミャンマーでの金融システム近代化についての調査を受託している。今後、調査結果に基づいたシステム導入プロジェクトが動き始める可能性は高い。「早ければ2012年中にも、ミャンマーの金融システム分野で大和総研との仕事が増えるだろう。同社向けのIT人材を2015年までに500人体制にしたい」とエースのゾー・モー・タン社長は述べる。
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今後は経済制裁緩和を受けて進出してくる欧米のIT企業との間で、IT人材の獲得競争が激しくなる。日系IT企業に、これだけメリットのあるミャンマー進出を躊躇する時間はない。
ただ、人件費の安さだけに着目したのでは、いつかは行き詰まる。日本語の習得能力を生かし上流工程を任せたり、英語と日本語を使えるバイリンガル技術者として海外拠点で活用したりするなど、ミャンマーのIT人材ならではの付加価値を見出し、中長期的な人材活用戦略を考えることが必要だ。

ミャンマー・コンピュータ・フェデレーション(MCF)会長
テイン・ウー氏
MCFはIT企業の加盟団体やIT人材の登録団体など三つの組織をまとめるミャンマー最大のIT業界団体だ。傘下の組織には約400社のIT企業が加盟している。
ミャンマーはまだ経済規模が小さく(2010年の国民1人当たり名目GDPは702ドル)、IT産業も大きくない。ただ、IT系大学は全国に20校以上あり、毎年数千人の学生を輩出している。ITの基礎知識があり、英語力も備える新卒人材を、ぜひ日系IT企業は活用してほしい。そのための技術移管や投資を期待したい。
ミャンマーにはIT人材を低コストで豊富に供給できる環境があるとはいえ、即戦力で使えるほどの技術力を持つ人材はいない。日系IT企業での仕事や研修を通じて鍛えてもらう必要がある。
そうすれば日系IT企業はインドやベトナム、フィリピンなど、アジア市場を開拓するためにミャンマーのIT人材を活用できるようになる。将来は日系IT企業がアフリカ市場に乗り出す際にも、ミャンマーのIT人材を活用できる。日本とミャンマーは、互いに足りない部分を補いながら、新興国市場の開拓を目指すなど密接に協力できるはずだ。(談)