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 規模の大小を別にすれば、ほとんどの企業が何らかのシステムトラブルを経験しているのが現実だ。一方で利用が拡大するにつれ、トラブルによる影響は拡大し続けている。経営層はこの前提を踏まえ、システムのあり方を考えていかねばならない。

 「絶対に止まってはいけない」と「止まっても影響が大きくない」といった具合にシステムに優先順位をつけ、投資を配分する。こうした考えでリスクを管理し、システムを運用しているのがインターネット大手のヤフーだ()。

図●ヤフーは、地震情報を即座にウェブサイトに反映させる仕組みを設け、システムも厳格に運用している
図●ヤフーは、地震情報を即座にウェブサイトに反映させる仕組みを設け、システムも厳格に運用している
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 日本一のポータル(玄関)サイトである「Yahoo! JAPAN」を運営する同社は、今のところ利用者に致命的な影響を与えるようなシステム障害は起こしていないという。現在、多くの企業が処理するデータ量の急激な増大に悩まされているが、ヤフーを見る限りトラブルの言い訳にはできない。

 ヤフーの考え方はあくまで現実的。「100%動いていなければならない、という発想では手間とコストがかかって仕方ない。システムが落ちてもいいレベルを定め、障害が起こった場合の影響範囲を事前に定義している」(ヤフーで執行役員を務める西牧哲也・情報システム本部長)。

 同社は自社のサービスを重要度に応じて3段階に区分する。最重要の「ティア1」に位置づけているのが、トップページやニュースなどに向けたシステムだ。「テレビを見ている人が助かって、ネットを見ている人が地震で死んではいけない」という井上雅博社長(当時)の持論を反映したもので、特に地震情報や気象情報には力を入れている。

 ティア2はそのほかのウェブサービスが中心で、相対的に優先度が低いティア3は同社の収益源となるオークションやショッピングが入る。自社のビジネスよりも、ネットの「公益性」を重視してのことだ。

 ヤフーがここまでサービスを明確に分類したのは、実は最近のこと。「以前はサービス責任者に任せて大ざっぱに分けていたが、すべてのシステムを棚卸しし、会社として細かく優先順位と対策を定めた。棚卸しすることで、改めてどのサービスが最も重要なのかを再認識できた」(西牧氏)。

 契機となったのは東日本大震災だ。以前からBCP(事業継続計画)は用意していたものの、井上社長の指示で新たに作り直したという。

 「重要なシステムには障害対策にお金をかける。そうでないものはそれなりにとのメリハリをつける。この判断を下すのは経営の役目だ」。システム事情に詳しい早稲田大学の根来龍之IT戦略研究所所長はこう指摘する。