これまで実証実験レベルに止まっていた「農業のIT化」が、安価なクラウドサービスの活用により、事業化に向けて離陸し始めた。富士通とNECが相次いで農業関連のサービスを発表(表)。生産農家だけでなく、農業に参入する企業も取り込み、新ビジネスを生み出そうとしている。
富士通は2012年10月から、農業経営を支援するクラウドサービス「Akisai(アキサイ)」を提供する。効率化や収穫増大を目指す農業法人や、流通・外食企業などを対象とし、2015年度までに累計150億円の売り上げを目指す。
Akisaiは農業関連のアプリケーション群の総称だ。10月からは第一弾として「農業生産管理SaaS」を提供する。農業生産者向けのサービスは月額4万円から。生産者は農薬の散布状況や、作物の生育状況などをスマートフォンで記録し、富士通のデータセンターに蓄積。PCから農場ごとの作況や農作業の履歴、収益性など、経営管理に必要な情報を把握できる。
「作物の品質や生産性を(ITを使って)見える化することが、収益拡大の鍵になる。改革を進めようとする農業法人を支援したい」と、阪井洋之ソーシャルクラウド事業開発室長は力を込める。今後は畜産農家向けの機能や、農作物の販売・出荷管理機能を拡張したサービスを、順次追加提供する。
農産物の買い手向けのサービスも提供する。契約農家ごとの生産計画や収穫量予想を一元管理することで「機会損失と廃棄ロスを削減できる」(阪井室長)。富士通はイオンと提携し、イオンの直営農場を舞台にクラウドサービスの実証実験を進めてきた。そのノウハウを活用し、外食企業などにもAkisaiを売り込む構えだ。
NECは農業用暖房機器大手のネポンと提携し、5月からクラウドサービスの提供を始めている。温室にセンサーを設置し、暖房機の異常や温度などの情報を、遠隔地のPCから見られるようにする。価格は月額2980円からと手頃だ。NECは7月に全国農業協同組合連合会(JA全農)と提携。JAを通じて生産農家にクラウドサービスを拡販していく。
富士通とNECは、農業に参入する企業の増加もビジネスチャンスと見る。例えばローソンは、全国6カ所で農業生産法人を設立し、コンビニ店舗で販売する野菜を栽培している。NECは農場で使うタブレット端末を提供し、クラウド上での情報管理と、ローソン本社の調達計画を支援する。今後、農業を有望分野と見たIT企業の参入が増えそうだ。