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 韓国政府のシステム発注力を象徴するのが、情報安全部の傘下にある情報社会振興院(NIA)だ。民間出身者を中心に約350人が在籍するこの組織は、各省庁のシステム調達計画を監査、支援するほか、韓国の政府の電子化戦略を練り上げる中心的な役割を担っている。NIA電子政府プロジェクト部門のパク・セギュ部門長に、韓国の政府システム調達体制を聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ



韓国情報社会振興院(NIA)電子政府プロジェクト部門長
韓国情報社会振興院(NIA)
電子政府プロジェクト部門長

情報社会振興院(NIA)は、韓国政府のシステム調達の要として機能しているという。NIAの組織の構成や役割を教えてほしい。

 NIAの役割は大きく分けて二つある。一つは、各省庁のシステム調達の支援や監査。もう一つは、電子政府の戦略を立案するシンクタンクとしての役割だ。

 NIAは、電子政府を担当する行政安全部の下部組織で、人員は350人ほど。公募で採用する院長と副院長のほか、350人いる職員のほぼ全員が民間出身者だ。ITの専門家のほか、シンクタンクとしての機能を果たすため、法学、行政学、人類学などの専門家を集めている。

韓国政府は、システム調達の成功率を高めるために、どのような体制で調達に臨んでいるのか?

 まず、韓国政府のシステム調達の流れについて説明したい。韓国政府には、大統領の特命機関である国家情報化戦略委員会があり、ここで電子政府の5カ年戦略を決定する。各省庁は、システム調達の実行計画を戦略委員会に提出し、予算を申請する。

 予算を獲得した省庁は、自ら入札を手掛けることもあれば、調達庁という組織に委託することもある。調達庁は委託を受けると、事前にプールしている審査員を集め、入札の審査を行う。

 プロジェクトの成功率を高めるための三つの仕組みがある。

 一つは、各省庁がシステムを調達する上で、EA(エンタープライズアーキテクチャー)に基づく業務やシステムの最適化を義務づけている点だ。これを事前に実施しないと予算が取れない仕組みになっている。

 もう一つは、5億ウォン(約3000万円)以上のシステム調達では、第三者の監理法人による監査を義務づけている点だ。監理法人は、NIAが発行する「情報システム監理士」の資格を持つ技術者を一定数以上抱える組織で、韓国に40以上ある。この監理法人がプロジェクトの妥当性を事前に精査している。

 最後の一つは、システムの事後評価だ。行政安全部は年1回、NIAのサポートのもとで「情報化評価」という監査を各省庁に対して実施する。システム調達の成否が点数化され、すべて公開される。この点数が低いことは大臣にとっては恥ずかしいことで、これが調達を成功させる動機付けになっている。このほか、財務省もコスト面を中心に年1回の監査を実施しており、こちらもNIAがサポートする。

2012年5月には、大手IT企業が政府システムの調達に入札できないようにするソフトウエア振興法が成立した。その背景は?

 これまでも、年商8000億ウォン(約560億円)を超えるIT企業については、一定の入札制限があった。それが来年からは、こうした大手IT企業および、その出資を受けた企業は入札に参加できなくなる。

 この法案の成立には、二つの目的がある。一つは、これまで政府システムを手掛けていた大手IT企業に、海外への進出を促したいと考えていること。もう1つは、中堅のIT企業の育成だ。既に政府によるシステム発注の基準やプロセスは確立しているので、例え大規模なシステムでも、中堅企業に委託できるだけの発注力はあると考えている。

韓国では近年、戸籍制度を廃止して家族関係登録簿制度を始めたり、印鑑証明制度が廃止するなど、政府システムの改変を伴う大きな制度変更を実行している。こうした制度変更に、NIAはシンクタンクとしてどのように関わっているのか?

 まずNIAは、制度変更を行いたい各省庁から依頼を受けたり、電子化への社会ニーズ調査を行うなどして、電子政府のあるべき姿について議題(アジェンダ)を設定する。その後、アジェンダに基づいて議論する特命チームをNIA内部に立ち上げる。チームにはNIA職員のほか、関係する省庁、当該分野の専門家が入り、具体的な電子化戦略を練り上げた上で、各省庁に差し戻す。

 この戦略は、各省庁のシステム調達戦略にそのまま反映されることもあれば、大統領の選挙時のマニフェストに加えられ、国家プロジェクトになることもある。

 これまでの電子政府への取り組みは、いわば「何もない荒野に木を植える」ようなものだった。誰もやったことがない分、あるべき姿を白紙の状態から議論できた。

 ただ最近は、複数の行政サービスを組み合わせた電子サービスの戦略を練る上で、個人情報保護の観点から反対を受けるケースが増えている。例えば、韓国には身分証明書としてのプラスチックカードはあるが、様々な情報を集約したICカードはまだ導入できていない。ICカード自体にデータを格納すると、カードを紛失した際に医療情報など様々な情報が漏洩するのでは、との意見があるためだ。この点については今後も議論を続けるつもりだ。