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 韓国で中央政府の電子化戦略を担うのが、前回の記事で紹介した情報社会振興院(NIA)とすれば、地方行政の電子化の要といえるのが韓国地域情報開発院(KLID)だ。KLIDは、地方自治体向けに共通アプリケーションソフトを開発して配布することで、自治体のITコスト削減に貢献している。このほか、5年ごとに地方行政の情報化戦略を策定する政府内シンクタンクとしての役割も担う。KLIDのジョン・チャンソブ院長に、地方自治体向けシステムの調達体制を聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ



韓国地域情報開発院(KLID)院長
韓国地域情報開発院(KLID)
院長

KLIDは、自治体の情報システム向けに共通のアプリケーションソフトを開発し、無償で自治体に配布しているという。ソフトを共通化するまでの経緯を教えてほしい。

 韓国でも、1990年代までは自治体ごとにソフトを開発していた。この結果、IT投資が重複して大きな無駄が生じていたほか、自治体間で必要なデータ交換ができないなどの弊害が現れていた。

 そこで2003年、自治体が資金を出し合って「自治情報化組合」という団体を作り、共同利用できるアプリケーションソフトの開発を始めた。

 地方自治体は国の法律に基づいて行政の委託を受けているので、業務には共通点が多い。結果、基幹行政システム、財政システム、税システム、人事給与システムなどを共通化できた。

 2008年には、電子政府法の改正に伴い、組織の名称を「地域情報開発院(KLID)」に変え、電子政府法に基づく特殊法人になった。とはいえ、国が自治体にアプリケーションソフトの利用を強制しているわけではない。共通システムを使えば、自治体はその分だけ開発費を節約できるので、結果的に韓国の全ての自治体が我々のソフトを利用している。

共通化に当たり、自治体向けアプリケーションを開発していたITベンダーから反発はあったのか?

 例えば戸籍を管理するシステムについて、従来はITベンダーが地域ごとに縄張りを作り、それぞれが独自にソフトを開発していた。こうしたITベンダーに対し、我々は「今後、アプリケーションソフトが共通化へ進むのは必然」などと説得した上で、共通化のための開発作業にそれらのITベンダーを巻き込んでいった。

 ソフトを共通化する際には、氏名を登録する漢字のコードをUTF-8に統一するなど、これまでベンダーごとに異なっていたデータ仕様も標準化した。ベンダーごとに独自に存在していた外字も、どのパソコンでも扱えるよう内字に変換した。

自治体の行政にかかわる法律は共通でも、業務の流れや税体系、住民のニーズは自治体ごとに異なる。どのようにアプリケーションを共通化したのか?

 税体系など自治体ごとに異なる点については、KLIDが独自開発したルールエンジンを組み込むことで、年齢層ごとに税率を変えるなど、パラメータ設定で対応できるようにした。

 加えてKLIDでは、自治体から機能追加の要望を常に受け付けている。要望をとりまとめた上で、自治体の担当者が参加する会議体で「共通システムとして開発すべき機能」を選別している。

 今後は、自治体がより柔軟に追加機能を開発できるようにする考えだ。2012年以降、アプリケーションソフトを「固定ブロック」と「カスタマイズ可能なブロック」に分離する作業を行い、後者については自治体が自由に修正できるようにする。ブロック間のインタフェースを明確にすることで、固定ブロック部分のバージョンが上がっても、カスタマイズ部がそのまま使えるようにする。

KLIDではどのような体制で共通ソフトを開発しているのか?

 共同利用するソフトのうち、大規模なものは上位組織である行政安全部が発注し、開発が終了したソフトをKLIDが引き受け、維持管理や改修を行う。追加機能の開発や小規模のソフトの開発はKLIDが担う。

 ソフトを発注するのに必要な要件定義を行う職員が12名いるほか、改修を行うITベンダーの技術者が約150人ほど常駐している。ITベンダーは毎年入札で選定し、年間400件ほどの開発、修正を実施している。

特定のハードやソフト、ITベンダーの利用を強いられる「ロックイン」を防ぐ工夫は?

 まず、特定のハードやソフトに縛られないための仕組みとして、韓国には「ウィンバック制度」というものがある。「ソフト/ハードの移行に全責任を負う」というITベンダーが現れた場合、例え移行に失敗しても調達した職員の責任を問わない、というものだ。

 ソフトの改修を担うITベンダーについては、KLIDでは1年で1回ベンダーを変更することで、特定の業者への依存を防いでいる。KLIDとITベンダーは、互いに事業管理マニュアルにのっとって仕事をしているので、例えITベンダーが変更しても、だいたいのケースにおいて1~2カ月でスムーズに仕事できるようになる。

 2012年5月、公共系システムへの大手IT企業の入札参加を禁じる「ソフトウエア産業振興法」が成立したことで、今後はKLIDも中堅・中小企業に発注する必要がある。我々自身、発注者としてのプロジェクトマネジメント力を高める必要があると考えている。