前回、TOC思考プロセスの全体像として、U-shapeモデルに従って問題の発見から解決策の立案、アクションプランの策定までに利用する各種ツールを紹介した。
これから数回にわたって、筆者が社内の開発プロジェクトにてTOC思考プロセスを実施し変革した事例を交えながら、TOC思考プロセスの各種ツールの実践的な利用方法を紹介していく。
事例プロジェクトの背景
今回ご紹介する事例のプロジェクトは、筆者の所属する会社の某システム開発プロジェクトである。簡単に事例プロジェクトの背景を紹介しておこう。
そのプロジェクトは、新規システムのリリースを数年前に終え、保守開発フェーズに入っていた。開発のやり方は確立され、プロジェクトは成熟しており、大きな問題があったわけではないが、保守開発フェーズということで開発要員は減らされ、さらなる開発効率向上が求められていた。
マネジャー層やメンバーたちの誰もが、日々、自分たちのベストを尽くし、最適なプロセスへ改善してきた自負を持っており、これ以上大きな改善ができるとは思えなかった。
筆者は、このプロジェクトのマネジャーから上記のような背景での改善を相談され、TOC思考プロセスを利用した問題解決に、プロジェクトメンバーとともに着手した。前回紹介したように、TOC思考プロセスのアプローチに従って問題解決を図ることは、プロジェクトの全員の合意を得ながら確実にアクションプランを策定できるメリットがあるからだ。
プラン策定の長期化を避けるのに適した手法~3クラウド法~
TOC思考プロセスをこのプロジェクトに導入するに当たって、問題解決のゴールであるアクションプランを導きだすまでにかかる期間の短縮が、最初の課題となった。思考プロセスは合意形成に有効だが、重厚なプロセスであるゆえに時間がかかってしまうという短所がある。
筆者の経験上、U-shapeモデルの順に従って進めた場合、すべて完了するまでにだいたい3カ月、長いケースだと半年くらいかかることもある。今回のように問題解決を実施する人たちの間で「既にできる改善はやりつくしている」という意識が強くあるなか、問題解決に長時間かかってしまうと途中で「やはりこれ以上は無理だ」といった諦め感が生まれてしまう。短期間で問題解決を図り、アクションプランの実行に移ることが重要である。
そこで、本事例のケースでは、まず問題仮説を立案し、そこから中核問題を導きだす「3クラウド法」を用い、短時間で確実にアクションプランを策定することとした。
3クラウド法とは、プロジェクトが抱えている最も重要な問題を最低3つ抽出し、それぞれの対立解消図を作成した後に、それぞれの対立解消図を統合することによって、中核問題を見つけだす手法である。
本手法を導入するうえで最も大切なポイントは、最初の問題抽出である。誤った問題を抽出してしまうと、偽の中核問題が導きだされてしまったり、そもそも中核問題を特定できなくなったりする恐れがある。つまり、人によって問題の観点や深さがバラバラであった場合には3クラウド法を適用することはできない。
この事例プロジェクトでは、マネジャー層が抱えていた問題意識が表面的なものではなく、かつ、観点が似ていたため、確度が高い仮説を立てられると判断し、3クラウド法の採用に至った。