競争の激しい東京支店長を務めた経験を持ち、東日本大震災では設備部門の責任者として陣頭指揮を執ったNTT東日本の山村雅之・新社長。光1000万基盤を維持しながらも、「ARPU(契約当たり月間平均収入)を上げていくことにもっと力を注ぐ」と言う。山村社長が意識するのは、モバイルとの競争だ。
今後の成長戦略は。

光回線の提供エリア拡大が一段落し、量を追い求める時代は終わった。競争環境は想定を上回るスピードで変化しているし、スマートフォンやタブレット端末の普及によりモバイルとの競争という側面も出てきた。今後も新規獲得は進めるが、それよりも、光1000万基盤を維持しながら、ARPU(契約当たり月間平均収入)を上げていくことにもっと力を注ぐ。
中長期的には、「電話・光」「SI」に次ぐ第3の収益源開拓が大きな課題になる。クラウドへの流れの中で、当社が得意とする地域/自治体向けクラウドサービスで収益拡大を目指すが、それでもまだ足りない。全国津々浦々に社員を配置している強みを生かした新たなビジネスの創出を考えている。
具体的には。
例えばパソコンや複合機などの保守代行だ。メーカーも保守サービスは展開しているが、地方までの要員配置は容易ではない。当社には光で約1000万件、加入電話で1000万件以上の顧客があり、設備の維持管理のためにどこにでも要員がいる。その力を活用したい。彼らは地域に密着したサービス提供で、地域固有の課題や悩みもよく理解している。過疎化や少子高齢化の問題解決にも役立てればと考えている。
KDDIの割引サービス「auスマートバリュー」にどう対抗していくか。
解約理由を調べてみると、「料金が高い」「モバイルで十分」といった声が多い。他社のサービスの魅力に負けている影響は思いのほか小さい。だから当面は、「にねん割」と長期利用に応じたポイント還元で対抗できるとみている。
モバイルとの競争は今後どうなっていくとみているか。
正直、分からないが、動画コンテンツが増えたとき、はたして携帯電話網は耐えられるか。携帯各社が固定回線へのオフロードを進めている通り、ユーザーの使用時間が最も長い場所は自宅やオフィス。そこに当社の光回線さえあれば快適に使える。
仮に日本でも米国のように携帯電話の料金が定額制から従量制へ移行すれば、携帯電話の安い料金プランと光回線、つまり無線の良さと有線の良さを組み合わせたサービスが主流になっていくかもしれない。スマートフォンやタブレット端末でメールやネットの閲覧だけというのは考えにくく、おそらく動画も閲覧するようになる。使い分けの時代は割と早く到来するのではないか。
スマートフォンの販売など、携帯電話事業への進出は考えていないのか。
現段階では何も考えていないが、半年後に違うことを言う可能性もゼロではない。当社が携帯電話事業に進出することはないが、固定とセットでなければ売れないとなれば、NTTドコモやソフトバンクモバイルは当社と組みたいと言ってくるかもしれない。そうなれば交渉するし、メリットがあれば一緒にやる。ただ、当社から持ちかけて、当社の原資でセット割引を提供するつもりはない。約1000万の契約者がいるので、単純な値下げは業績へのインパクトが大きすぎるからだ。