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 「企業のデータの多くは、残念ながら死蔵されている。だが、クラウドやモバイルデバイスを組み合わせることにより、データが生かせるようになる」。ガートナー ジャパンの本好宏次 リサーチ部門 エンタープライズ・アプリケーション リサーチ ディレクターはこう語る。

 クラウド技術による分析スピードの確保。あるいはモバイルデバイスによる機動的な利用スタイルの実現。新たな要素を加えることで、データを有効活用し経営革新を実現する企業の事例が増えているという。

 データから「インフォメーション(情報)」を抽出し、さらには意思決定に寄与する「インテリジェンス(知恵)」へと昇華させるにはどうすればよいか。本好リサーチディレクターに、「ビッグデータ」に象徴される、企業における最新の情報活用の動向を聞いた。

(聞き手は田島 篤=ITpro副編集長、構成は高下 義弘=ITpro)

企業における情報活用では、「ビッグデータ」というキーワードに注目が集まっている。

写真●ガートナー ジャパンの本好宏次 リサーチ部門 エンタープライズ・アプリケーション リサーチ ディレクター
写真●ガートナー ジャパンの本好宏次 リサーチ部門 エンタープライズ・アプリケーション リサーチ ディレクター

 ビッグデータの特性とその価値を正確に捉える上では、一般的によくいわれる「大量である」という点だけでなく、「高速」でしかも「多様」である、という点にも注目することが大切だ。私たちはビッグデータを「高度な洞察や意思決定を行うために、コスト効果が高い革新的な情報処理プロセスを必要とする、大量・高速・多様な情報資産」と定義をしている。

 前回も少し紹介したように、パン製造・販売を手がけるアンデルセンのグループ会社、アンデルセンサービスは、原価計算のシミュレーションシステムを運用している。このシステム基盤をHadoopとアマゾン・ドット・コムのクラウドサービスに切り替えたことで、従来4時間かかっていたバッチ処理をわずか20分に短縮できたという内容は、前回に述べた通りである。

 ここで注目すべきはスピードだ。バッチ処理の所要時間が4時間から20分に短縮されることで、原価変動時の経営判断が素早く下せるようになった。アンデルセンサービスはテクノロジーによって、データ処理の高速化を実現し、より俊敏なビジネス判断が可能な基盤を提供することに成功したといえるだろう。

モバイルでデータの利活用がいっそう進む

 データの利活用は、モバイルデバイスとの相性が非常に良いという特徴もある。新鮮なデータが時間や場所の制限なく参照できるようになれば、素早い意思決定と行動につながる。

 海外を中心に、タブレット端末やスマートフォンを使ったエンタープライズ・ダッシュボードのシステムを構築して、効果を上げている事例が登場してきている。

 米アパレル企業のゲス(Guess)は、iPadによるダッシュボードを構築した。場所や時間にとらわれずに経営情報を確認できることがポイントだ。エンドユーザーのフィードバックを得ながら画面を設計し、楽しく使える環境を作り上げたという。

 英ヘルスケア企業のレキットベンキーザーは、ERP(統合業務管理システム)上で管理している売上と在庫の情報を、スマートフォンのBlackberryからリアルタイムに参照できる仕組みを実現した。

 最初の段階では、試験的なシステムを比較的少額の投資で、しかも短期間に構築した。これがエンドユーザーから非常に高い評価を得た。マネージャークラスの社員が、返品の承認など各種の業務処理をスピーディに実施できるようになったという。

基幹系のデータに再び注目集まる

2つの事例はモバイル機器を使っているが、「スピーディな意思決定を支援する」という意味では、Hadoopを適用したアンデルセンサービスの事例と共通している。

 多くの企業ではこれまで、データはある意味、“死蔵”されていた。「タイミングよく引き出せない」とか、「すでにある大量のデータを高速に処理できるインフラがあれば活用できそうなのに、それができていない」といった理由からだ。

 しかしながら、クラウドやモバイルといった新しい技術を組み合わせることによって、死蔵されているデータが生かせるようになってきた。これが2012年を象徴する動きであろう。

 ビッグデータを単に大量であると捉えるだけでは、今起きている本質を理解することは難しい。高速に処理できるテクノロジーが登場し、データを参照するデバイスが多様化したことで、価値が引き出せるようになったといえる。

 前回に紹介したように、ガートナーはビジネスおよびITの世界に押し寄せている変化を「The Nexus of Forces(力の結節)」というキーワードで表現している。クラウド、モバイル、ソーシャル、インフォメーションといった4つの要素が互いに組み合わさって連鎖反応を起こしていく、という動向を示したものである。データの分野でも、The Nexus of Forcesに沿った動きが起きていることを分かっていただけるだろう。

 ガートナーITデマンド・リサーチが2011年11月に実施した調査結果を紹介しよう。それによれば、企業に「ビッグデータとして活用中もしくは活用検討中のデータとして何がありますか」と質問したところ、一番多かった項目が「基幹系業務データ」で、71.2%の企業が選択したという。

 次に「Webアクセス・ログ」や「オフィス文書」「画像」が続くものの、それらを選択した企業は20%強にとどまっている。つまり、企業は以前と変わらず基幹系業務データに目を向けていることを示している。

 ご承知のとおり、従来からBI(ビジネス・インテリジェンス)あるいはデータウエアハウスというキーワードの下で、各企業はデータを分析して活用する取り組みを進めてきた。そのデータソースは、基幹系の業務データだ。この点でいえば、ビッグデータが注目を集めている今も変化していない。

 逆に言えば、企業は今、この古くて新しいテーマに改めて立ち向かおうとしているわけだ。

 日本企業は大手を中心に、多額の資金を投じてERPをベースにした基幹系システムを整備してきた。最近、この基幹系システムに追加投資を加えてデータをより活用できる形に整備し、システム全体として投資価値を最大化していこうという機運が高まっている。データを活用するためのシステム投資も、試験的なものであれば安価に済む。かつ短期間に実現できる。このことも追い風になっているようだ。