シンガポールや香港に対抗し、東アジアの新たなデータセンター(DC)ハブとして名乗りを上げたのが韓国の釜山だ。日本の半分程度とされる電気料金の安さや、地震がほとんどないこと、多くの海底ケーブルが釜山に陸揚げされていること、シンガポールや香港に比べた土地の広さなどのメリットを打ち出し、海外からのDC利用企業の誘致を強化している。
「北朝鮮との戦闘でも釜山は安全」

LGグループのシステム会社LG CNSはNTTデータと組み、主に日本のシステムのバックアップ用途として韓国のDCを売り込み始めた。ソウルの2カ所の既存DCと、2012年12月に開業予定の釜山DCを日本企業へアピールしている(写真2)。
韓国の通信最大手のKTもソフトバンクテレコムと合弁会社を設立し2012年1月、釜山近郊にDCを開設した(表2)。
韓国のDCを日系企業に利用してもらうための課題は、北朝鮮問題と反日感情に対する日系企業の不安や懸念だ。
LG CNSの金泰克シニアバイスプレジデントは、北朝鮮問題について「全面戦争の可能性は低い。戦闘が起こっても局地戦にとどまり、国境から離れた釜山は安全」と断言する。さらに、反日感情への懸念については、「民族感情に訴える勢力は韓日とも一部。電機産業を中心として両国の経済的な結びつきは大きく、合理的な判断をする日本企業なら、韓国のDCも利用対象になる」と期待する。
KTの朴浚植シニアバイスプレジデントも「ソウルは北朝鮮との国境から近いが、釜山は離れているので懸念する必要はない。企業活動や経済活動と、民族感情は別モノだ」と強調する。
大型DC開設が相次ぐ香港
シンガポールと双璧をなすアジアのDCハブが香港だ。顧客の旺盛な需要を受け、大手事業者によるDCの新設や増床が加速している。

「欧米の経済環境が悪化するなか、世界中の金融機関が成長市場としてアジアに注目している。だから金融市場の中心である香港のシステムの規模も大きくなる」。オランダの金融大手ABNアムログループのABNアムロ クリアリング香港現地法人でIT統括を務めるカズ・ケンパースIT部門長はこう説明する(写真3)。
同社は、KDDIが運営するテレハウス香港CCCなど複数のDCを香港で利用中。金融サービス用など全体で約60ラック規模のシステムをDCに構築している。
欧米の金融機関のシステム需要拡大などを受け、KDDIはテレハウス香港CCCの増床に着手。NTTコミュニケーションズは海外で自社最大級となる新DCを2013年3月までに開業予定だ(表3)。同DCは香港証券取引所が新たにシステムを設置するDCの隣という好立地と、陸揚げした海底ケーブルをDCへ直接引き込む構造が特徴。富士通も香港での二つめのDC開設を検討し始めている。