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 日本の家電メーカーの業績が振るわない。ソニーとパナソニック、シャープの3社は2012年3月期、揃って巨額の赤字を計上した。なぜ苦境に立つことになったのか。

 私は「自分がどこから来たのか」「どこに向かっているのか」という問いに向き合うことが重要と考える。日本の家電メーカーはそれを忘れたことで、今日の事態を招いてしまったのではないだろうか。

大量販売が苦手な会社が量を追い、市場ニーズに敏感な会社が鈍感に

ノンフィクション作家 立石 泰則 氏
ノンフィクション作家
立石 泰則 氏

 では、ソニーはどこから来たのか。ライフスタイルを変革する先進的な製品を送り出してきた企業で、大量にモノを生産して世界中で販売するというスタイルとは一線を画してきた。その最たるものが独自のデジタル高画質技術を搭載した平面ブラウン管テレビ、WEGA(ベガ)だ。しかし、薄型テレビの時代に入ると、その技術の搭載をやめて安売りに軸足を移した。大量に売ることに不慣れな会社が量を求めた。

 パナソニックはどうか。松下幸之助が二股ソケットを発明したときの有名なエピソードがある。夜道を歩いているとき、家の中から兄弟げんかが聞こえた。1つしかないソケットを争っていた。パナソニックは市場の声に耳を傾け、成長してきた会社である。

 ところが、薄型テレビではその姿勢が見られなかった。消費者がプラズマより液晶を求めていることが明らかになっても、パナソニックはプラズマにこだわった。

 シャープは液晶で一時代を築いた。その背景にはブラウン管時代にキーデバイスを持たなかったという悔しさがある。液晶テレビで地位を確保してからは「表示装置だけでなく絵づくりも」と、信号処理技術にも注力した。

 そのシャープもどこから来たのかを見失ったように思えてならない。シャープは4K(フルHDの4倍密度の高精細)テレビの技術で、世界の先端を走っている。最近、シャープは大画面重視の姿勢を宣言したが、経営陣は記者会見で4Kテレビについて言及しなかった。私はがっかりした。

日本の最大の強みは高画質、依然可能性秘めるテレビ

 日本の家電メーカーのテレビ事業で最大の強みは高画質(絵づくり技術)だ。「テレビはコモディティ化した」とよくいわれるが、私はテレビには大きな可能性が残っているように思う。こう考えるきっかけは東日本大震災である。巨大津波の映像を見て、不思議な感覚を覚えた。これほど悲惨な現実を現実のものとして受け止められなかった。HDTV(高精細テレビ)では、恐怖感を伝え切れていない。

 シャープが開発中の4Kテレビを見たとき、その迫力、臨場感、質感に圧倒された。4Kテレビなら巨大津波の恐怖を現実感とともに伝えられただろう。それは世代を超え、災害の恐ろしさを伝承するうえで重要だ。4Kテレビはすでに日本にあるHDTVのインフラを使える。

 HDTVのインフラと、最近急速に普及しているクラウドコンピューティングの技術を組み合わせれば、様々なビジネスを創出できる。例えば、様々な地域の町おこしの中に高画質のテレビを置けば、どうなるか。そのテレビで伝統行事を流し皆で楽しむのもいいし、防災のための活用もできるだろう。主要病院に設置して手術の画像を撮影し、研究や教育用にも使える。各地で実証実験が始まったスマートシティでも様々な用途が考えられる。

 テレビを再定義するのではなく、ディスプレーとして再定義することで、様々な可能性が広がる。4Kをはじめとする高画質技術を持つ企業と、日本各地の人たちがつながることで産業とビジネス、雇用を創出できる。日本ならではの土俵をつくり、やがてはそれを世界に広めることは不可能ではない。

 そのためには、経済産業省などの政府機関が全体のコーディネート役を果たし、オールジャパンの枠組みづくり、多彩なプレーヤーがオープンな環境で連携する環境づくりを推進する必要がある。新しい産業の創生に向け、政府は最大限のサポートをしなければならない。

 4Kテレビの技術で世界の先端を走っているのはシャープと東芝である。とはいえ、韓国や台湾、中国の家電メーカーは急速な勢いで追い上げている。

 追い付こうとすると、人間は意外な力を発揮することがある。実は、ボストンに訪れたとき、日本料理店で出された豆腐の味がとても素晴らしいので料理人に尋ねたところ、「日本で教わった通りにつくっている」といわれた。

 特別な豆腐ではなかった。私が近所のスーパーの豆腐の味に慣れていたというだけの話だった。「自分は中心にいる」「自分こそ本場だ」と思っていると、ついつい大事なこと、物事の基本を忘れてしまいがちだ。

日本に追い付こうと必死に努力、信号処理技術者が最多の中国

 中台韓の家電メーカーはボストンの料理人と同じように、日本をキャッチアップしながら、日本を追い抜こうと必死に努力している。その証拠に、デジタル信号処理技術者が世界でいちばん集まっている国は中国だといわれている。

 日本の家電メーカーは「そこそこの絵づくりでいい」と高画質化に力を入れなかった時期がある。その間に、中台韓の家電メーカーにその差を縮められてしまった。日本の家電メーカーはそれを正しく認識し、反省しなければならない。

 そのうえで、自分がどこから来たのか、どこに向かっているのかと原点に立ち返り、自分の強さを問い直すことで、未来への道は開けてくるはずだ。

 悲観する必要はない。これほどの最悪期を経験し、社内には危機意識が横溢している。中核技術に磨きをかけることで、日本の家電メーカーは必ず復活する。