久しぶりに「ソーシャル革命」というフレーズを目にしたような気がする。ITproのこの記事のことだ。米Salesforce.com主催の「Dreamforce 2012」においてCEOのマーク・ベニオフ氏が基調講演で語ったもののようだが、率直に言って「ああ、アメリカでも、まだ“ソーシャル革命”というフレーズが出てくる状況なんだ」という印象を持った。
ただ、気を付けたいのは、この「ソーシャル革命」というニュアンスそのものが、少なくとも日本とアメリカでは根本的に違うという点である。
同じ「ソーシャル革命」でも日本とアメリカでは違う
誤解を恐れずに一言で言えば、日本でイメージされているソーシャル革命は「ソーシャルメディアが普及するにつれて、社会が、ビジネスが変わる」というものである。これに対し、アメリカ、特にビジネスの世界におけるソーシャル革命は、前述の記事でベニオフ氏が語っているように「ビジネスにソーシャルネットワークを組み込み変革すること」を指している。これはベニオフ氏だけではなく、アメリカの特に大企業の間で少しずつ考えられつつある動きと言ってもよいだろう。
つまり、日本ではまだ「世の中が変わるよ」と言っているだけなのに対し、アメリカでは「世の中は変わる(変わった)から、それに対して企業も自らを変えていかないといけない」という、もっと動きや方向性が具体化された状態になってきている。
とはいえ筆者自身の中では、少なくともアメリカ国内では、いわゆる「自らを変えていかないといけない」というソーシャル革命が、もう少し進んでいると思っていた。それが「まだ“ソーシャル革命”というフレーズが出てくるような状況なんだ」という冒頭の考えにつながってくる。
専任者や専門組織を作ることによる弊害も
さて、そのソーシャル革命だが、現実を考えた場合、確かに組織にとって「自らを変える」ということは非常に困難ともいえる。ただ単純に“専任担当者をアサインする”ということや“専門組織を構築する”といったアクションだけで、すべてが解決するというようなものではない。
実際に、海外の企業はもちろんのこと、日本国内の企業でも既に「ソーシャルメディア担当者」が生まれて増えつつある状況にあるし、「ソーシャルメディア(あるいはデジタル)専門組織」が構築されて久しい企業も決して少なくない。それでもなかなかソーシャル革命が進まないのは“担当者あるいは専門組織以外”の要素が足かせになっていることが多いからだといえるだろう。
いや、専任担当者をアサインしたり専門組織を構築することで、かえって「ソーシャル革命」への動きが阻害されているケースも少なからず存在する。なぜなら、そうすることで専任担当者や専門組織に任せっきりにしてしまうからだ。
もし、専任担当者や専門組織が、たとえば全社的に非常に強い影響力を持つような状態であればよいが、もしそうではない場合は最終的には“何でも屋”的な担当者、あるいは部門が誕生しただけで、組織そのものは全く変化しない、つまり「企業が自らを変えていく」ということには結びつかない結果になってしまう。
真のソーシャル革命には組織全体の変革が必要
確かに海外でも、ソーシャルメディアが徐々にビジネス方面に活用されていく動きが強まるにつれ、まずは専任担当者をアサインし、続いて専門組織を構築して…、という変化が企業内で起こった。だが、結局それだけでは本当の意味で対応できないということに気付き、現在では企業全体として、一部の組織や担当者だけに任せる形ではなく、全社的に変革を進めていくという流れが生まれてきている。
もちろん、そのために、場合によっては企業内の制度や仕組みにも手を付けなくてはならないこともある。そして実際に、そこにも着手する動きが見え始めている。特に、対外的なコミュニケーションを実施するにあたって、そのイニシアチブを取る部門や担当者の連携であったりといった部分などは大幅に変わりつつある。
これまで何回かに分けて、企業がソーシャルメディアの生み出す大きな流れに相対するにあたって、もはや“デジタル”という区別された領域だけでは対応できないということをテーマに語ってきた。実際“デジタル”という括りだけで解決するような問題ではなく、「企業としてどう変わることができるか」という大きなテーマにまで及びつつある。専任担当者や専門組織を作るということも、その途中の一過性のソリューションでしかない。最終的に企業が自ら行わなければならない変革を意識した上で、ソーシャルメディアのことを考えなくてはならない。
リーバイ・ストラウス ジャパン デジタルマーケティングマネージャー
