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 前々回より、保守開発フェーズの期間短縮に向け、現場担当者が「ベストを尽くした」と思っている状態から、合意を形成しながら中核問題を特定し、さらなる改善のアクションプランを策定していった事例を紹介している。

 今回は、特定した中核問題のジレンマを解消し、アクションプランに落とすところまでを紹介しよう。

中核問題のプロジェクトメンバーとの共有

 前回までは、2つの中核問題の仮説を抽出と、その仮説の妥当性検証を、3クラウド法を用いて実施した。前回までに抽出した中核問題をおさらいしたい(前回の図2を参照)。

中核問題1:計画通り作業を進めることより、リスクを考慮して作業を止めてでも、前の作業の成果物を完全にすることを優先したいが、前の作業の成果物の状態によるリスクを考慮するより、計画を遵守することを優先してしまう。

中核問題2:作業量、要員の作業負荷、リスクを考慮して要員を割り当てて確実に作業をこなしたいが、限られた要員に作業を割り当てて、全ての作業の締め切りに間に合うように力技で作業をこなしてしまう。

 これら2つの問題は、ITプロジェクトを経験されている読者の皆様にとっては、共感できるような「ありがちで一般的」な問題と言えるのではないだろうか。そして、ありがちな問題であるがゆえに、これらの問題を制約と考え、諦めて放置してしまってはいないだろうか。

 しかし、連載初回で記したとおり、TOC思考プロセスは、合意形成のツールでもある。TOC思考プロセスによる問題分析には、このような放置されてきた重要な問題を、全員の共通認識として想起させ、改めてメスを入れなければならないという危機意識(注)をもたらす効果がある。

(注)
米ハーバード大学経営大学院名誉教授のジョン・コッター氏は著書『ジョン・コッターの企業変革ノート』(日経BP社)において、現状への危機意識を高めることが、変革の実現に当たって最初であり重要なステップであると記している。

 実際、今回中核問題を一緒に分析してきたプロジェクトのメンバーにヒアリングしたところ、以下のように、中核問題として提起された問題内容に納得感を得ており、「解決すべき問題である」という意識を改めて持ったというコメントが多く寄せられた。

    <中核問題を共有した際のプロジェクトメンバーの意見(抜粋)>
  • グループを越えた、プロジェクト全体での改善活動は、今までできていなかったので結果を出したい。長年当たり前と思ってやってきており、暗黙の前提として諦めていた部分や触れてはいけないと考えていた部分を解決可能な取り組みであると感じている。
  • 中核問題は、自分も含めほぼ全員納得感を得ている。認識が一致しているということは、チームの問題ではなく、プロジェクト全体としての問題なのだと思う。問題意識が一致しているのに、解決できていないということは根が深いのではないだろうか。

 ここで示したように、TOC思考プロセスのワークショップを実施される際には、決定した内容について、メンバーの合意が得られているかを常に確認しながら進めてほしい。特に、中核問題が特定された段階では念入りに確認する必要がある。

 今回の事例のように、中核問題の納得感が得られていることが、今後のジレンマの解消とアクションプランの検討・実施の際に、メンバーが主体的かつ自律的に動くための必須条件であるからである。