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 大阪府市統合本部では、府と市の事業の統合の準備を進めている。また本部では、地下鉄やバスなど、大阪市が直営で行っていた事業の民営化の準備作業も行っている。今回は6月19日に明らかにされた府市統合本部方針の地下鉄民営化の方向性を解説する。

近鉄にも匹敵する巨大な独占事業体

 市営地下鉄は2015年度に民営化することになった。民営化後は、人件費を私鉄並みに引き下げるなどの措置によって、現在より年間で約121億円のコストダウンを見込む。これらを原資に初乗り運賃の値下げ、トイレなどの改修、駅の改良、終電時間の延長など、サービスが飛躍的に改善する見込みだ。

 大阪市営地下鉄は、東京メトロに次いで全国第2の営業距離を誇る地下鉄である。2010年度の運輸収益は約1514億円で、これは近鉄、阪神、阪急、南海、京阪など、関西のどの私鉄をも上回る規模だ。最近では年間約100億円の利益を出している。しかし、乗客数がしだいに減り始めている一方で、6500億円の建設債務を抱えている。そのため抜本的な合理化を必要としていた。特に職員の数と給与の見直しが課題だった。

 地下鉄職員の平均年間給与は、私鉄職員の平均627万円に比べると127万円も高い754万円である。また営業キロ当たりの職員数は私鉄の約2倍、他の都市の公営地下鉄に比べても格段に多い。

 公営の弊害は人件費問題だけではない。自動改札機などの機械の調達では、一番安い会社からまとめ買いができない。役所のルールによってどの会社からも均等に調達しなければならないからだ。また、駅の大きさに合わせて駅員の数を増減させるのも困難である。こうした問題を解決するために民営化は不可欠だ。ちなみにかつては新線建設の際に公債による資金調達ができたので公営だと調達金利が安くなるというメリットがあった。しかし路線整備がほぼ終わった今、その意味も薄い。どう考えても公営であるメリットは思い当たらない。

広域交通ネットワークの充実も

 市営をやめて企業化するもうひとつのメリットは、大阪市域にとらわれずに事業が展開できることである。地下鉄の乗客の8割は大阪市の外の住人である。ところが終電は私鉄に比べて20~40分も早く市外から通勤、通学する人は不便を被っている。今回の見直しでは、単純に顧客ニーズに応えることを考え終電を延長することになった。

 また、南北の大動脈である四つ橋線は、北は西梅田、南は住之江公園で止まり、大阪市域を越えた南北に延びていない。そのために南北の交通が御堂筋線に集中し、都市の発展を阻害してきた。これについては四つ橋線を十三、新大阪に延伸し、さらに南海本線を四つ橋線に乗り入れる計画が動き出した。

 大阪市営地下鉄は、これまで私鉄との相互乗り入れに極めて消極的だった。しかし鉄道はシームレス化とネットワークの充実が大切である。今回の民営化を機に私鉄やJRとの連携がどんどん進むだろう。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一
慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。大阪府・市特別顧問、新潟市都市政策研究所長も務める。専門は経営改革、地域経営。2012年9月に『公共経営の再構築 ~大阪から日本を変える』を発刊。ほかに『自治体改革の突破口』、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』、『行政の解体と再生』、『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。