◆今回の注目NEWS◆
◎政府CIOにリコージャパン顧問の遠藤紘一氏を起用
(日経コンピュータ、8月10日)
◆このNEWSのツボ◆
ようやく政府CIO(情報化統括責任者)が任命された。考えてみれば、IT基本法が成立したのが2000年、IT戦略本部が創設されたのが2001年であったことを考えれば、ずいぶん時間がかかったものである。霞が関にいた頃の最後の仕事がIT基本法の準備であったことを考えれば、筆者も若干責任を感じるところである。
ただ、当時と比べて、政府の「IT」に関する取り組みがスローダウン、ペースダウンしてきたことも事実である。IT戦略本部の前身である「IT戦略会議」の議長は、当時ソニーのCEOであった出井伸之氏であり、同会議が2000年11月に公表した「IT基本戦略」でうたわれていた四つの基本政策、すなわち「超高速ネットワークのインフラ整備」「電子商取引ルールと環境の整備」「電子政府の実現」「人材の育成」という戦略は、時代を考えれば先進的なものであったことは事実だし、そのうちの幾つかの項目では世界でも先進的な成果を上げてきた。しかしいつの間にか、「ITに関する国家戦略」があるとは到底言い難い状況になってしまったし、中でも「電子政府」に関しては、むしろ国際的な評価はどんどん下がってきている。
筆者も民間で企業経営に携わって痛感するのだが、なぜこのような遅れが発生したかという大きな理由は、民間では「ITは企業競争力を左右する」ことに気づく経営者が増えてきているのに、同じように「国のIT基盤は国の競争力を左右する」ということがいまだに政府レベルでは自覚されていないのではないかということである。
最近報道されたが、東京証券取引所が大阪証券取引所をTOB(株式公開買い付け)するにあたり、その目的に「システムの強化」が挙げられている。しかも東証は度重なるシステムトラブルによって金融庁から注意を受けているところでもある。いまや世界の金融取引の市場はマイクロ(100万分の1)秒、ナノ(10億分の1)秒のスピードを競い、それが競争力に直結すると言われている。今から10年前に誰がこのようなことを考えただろうか。
同じように、年金のトラブル(厳密に言えばシステムトラブルではないが、「消えた年金問題」のこと)など、国のITインフラの未熟さゆえに失われている国富は決して馬鹿にならないと考えられる。しかもマイナンバーの導入をはじめ、国の競争力そのものを左右しかねない重要なシステムの改革・構築が控えている。遠藤CIOには、ぜひ民間での経験とITの知識を生かして、「失われた10年」を取り返してほしいものである。
SGシステム 代表取締役社長、
フューチャーアーキテクト 取締役 事業提携担当、
スタンフォード日本センター理事

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はSGシステム代表取締役社長、フューチャーアーキテクト取締役 事業提携担当、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。