肝心な時に電話がつながらない---。東日本大震災はライフラインとなった携帯電話のネットワークに大きな課題を残した。その教訓から、総務省主導で野心的なプロジェクトが進行している。携帯コア網をすべて仮想化し、災害時には音声サービスへ多くリソースを割り当てることで、つながりやすい携帯電話システムを作ろうという取り組みだ。
東日本大震災時には、安否確認のために通常の50倍もの音声呼が集中し、広い地域で携帯電話が使いにくくなった。大量の呼の集中によって、携帯コア網の交換機の処理能力が不足し、輻輳が発生したからだ。
これをきっかけとして、総務省主導で、音声が集中する災害時でも携帯電話をつながりやすくする研究開発プロジェクトが進行している。通称“50倍プロジェクト”と呼ばれるこの研究開発を受託したのは、NTTドコモ、NEC、富士通、東北大学など。プロジェクトの中心人物であるNTTドコモ 先進技術研究所研究推進グループの滝田亘主幹研究員は「世界でも類を見ないモニュメンタルな取り組み」と強調する。
プロジェクトは2段階で進める。まず平成23年度の第3次補正予算の枠内で、2012年度末までに拠点内のコア設備の仮想化と、柔軟なリソース再配分の仕組みの開発に取り組む。さらに平成24~26年度の予算の施策として2014年度末までに、上記の取り組みのキャリアグレード化を図る。同時に、さらなる処理能力の増強を目指し、OpenFlowを用いて拠点間でリソースを融通し合う仕組みを構築する。
災害時にコア設備のリソースを再配分
まず前者の拠点内のコア設備の仮想化では、LTE以降の携帯コア網である「EPC」、さらにサービス基盤である「IMS」の各機能を、すべて仮想化基盤上で動作するようにアーキテクチャーを一新する(図1)。