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 クラウドを使い始めると、オンプレミス環境では存在しなかった問題が発生する場合がある。最近では、そのようなユーザーに向けたサードパーティーのツールが登場している。ここでは、WANで発生する(1)「ネットワーク遅延」と、IaaSを利用するときに使う(2)「管理ツールの使いにくさ」の問題を解消する手段を紹介する。

Problem1:ネットワーク遅延
スループットが大幅低下
SaaSを対象にした高速化サービスが登場

 クラウド提供事業者の多くは、複数のデータセンターを使ってサービスを展開している。そのデータセンターは、日本国内にないこともある。例えばマイクロソフトのOffice 365は、香港もしくはシンガポールにあるデータセンターを使ってサービスを提供している。だが、ユーザーとデータセンターの距離が離れていると、通信のレスポンスが低下する。これは「ネットワーク遅延」が原因だ。

 ネットワーク遅延とは、データを送信してから通信相手に届くまでの時間と、その応答を通信相手が送信してから送信元に届くまでの合計時間を指す。つまりデータを入れたパケットが伝送経路を通過するのにかかる時間(伝搬遅延)と、経路上のルーターなどの機器が処理する時間(処理遅延)などを足し合わせたものだ。LAN内であれば、ネットワーク遅延は1ミリ~3ミリ秒程度。しかし社外にある国内のデータセンターとのやり取りでは十数ミリ秒、海外のデータセンターでは100ミリ秒を超えることもある。このネットワーク遅延が、(A)スループットの低下や(B)システムのエラー──を引き起こす。では、ネットワーク遅延によって引き起こされる問題のメカニズムと対処方法を見ていこう。

遅延はTCP通信の大敵

 (A)のスループットの低下は、TCPで通信するときに発生する。例えば、3ミリ秒のネットワーク遅延と20ミリ秒のネットワーク遅延の環境でのスループットを比較しよう。100Mビット/秒の回線を使っている場合、3ミリ秒では最大100Mビット/秒だが、20ミリ秒では最大26Mビット/秒(パケットサイズが64Kバイトの場合)まで低下する(図3-1の右下)。これは、TCPの通信ではパケットを一つ送るごとに確認応答を行うためだ。

図3-1●ネットワーク遅延による悪影響が出やすいクラウド利用<br>TCP通信では確認応答があるため、ネットワーク遅延によってスループットが低下する。複数拠点を持つ企業が本社経由でインターネット接続を行っていると、「本社-拠点間の遅延」と「本社-データセンター間の遅延」の両方の遅延が生じてしまう。
図3-1●ネットワーク遅延による悪影響が出やすいクラウド利用
TCP通信では確認応答があるため、ネットワーク遅延によってスループットが低下する。複数拠点を持つ企業が本社経由でインターネット接続を行っていると、「本社-拠点間の遅延」と「本社-データセンター間の遅延」の両方の遅延が生じてしまう。
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 国内のデータセンターを利用した場合、ソフトバンクテレコムが毎月公表しているインターネットアクセスの平均ネットワーク遅延12.7ミリ秒である。インターネットアクセスする際、すべての拠点からの通信をいったん本社のファイアウォール経由にさせる企業ネットワークは少なくない(図3-1の中央)。この場合、地方拠点からクラウドサービスを利用すると、ネットワーク遅延は20ミリ秒を超える可能性が高い。クラウドのデータセンターが海外にある場合はさらにネットワーク遅延が大きくなり、スループットの低下が無視できなくなる。

SaaSに絞った高速化サービス

 米リバーベッドテクノロジーは2012年3月、SaaSを対象にWAN最適化装置を使ってスループットを向上させるサービスを開始した。これまでクラウド提供事業者やIaaSのユーザー向けにスループットを向上させるサービスはあったが、SaaSを利用するユーザー企業向けのサービスは初だ。このようなサービスを利用すれば、ネットワーク遅延によるスループット低下の影響を抑えられる。

 WAN最適化装置は通常、対向に設置した装置同士のスループットを、重複排除や通信手順の見直しなどを行って向上させる。リバーベッドの高速化サービスでは、企業側にWAN最適化装置を1台設置するだけでスループットを向上できる(図3-2)。ただし対象となるSaaSは、Google AppsとOffice 365、Salesforce CRMの三つに限定している。

図3-2●米リバーベッドテクノロジーが提供するSaaSの高速化サービス<br>Google Apps、Office 365、Salesforce CRMの3サービスに対応。高速化サービスでは、ユーザーが機能を有効にするSaaSを指定すると、SaaSのデータセンターに近いアカマイのサーバー上にWAN最適化装置の仮想アプライアンスを起動し、アプライアンスとユーザーのWAN最適化装置間の通信を高速化させる。
図3-2●米リバーベッドテクノロジーが提供するSaaSの高速化サービス
Google Apps、Office 365、Salesforce CRMの3サービスに対応。高速化サービスでは、ユーザーが機能を有効にするSaaSを指定すると、SaaSのデータセンターに近いアカマイのサーバー上にWAN最適化装置の仮想アプライアンスを起動し、アプライアンスとユーザーのWAN最適化装置間の通信を高速化させる。
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 ユーザーは、WAN最適化装置の設定画面でどのクラウドサービスを高速化するのかを設定するだけ。設定すると、指定したサービスのデータセンターに近い場所にある米アカマイ・テクノロジーズのサーバー機上に、WAN最適化装置が仮想アプライアンスとして起動する。

 起動した仮想アプライアンス(WAN最適化装置)は、企業内のWAN最適化装置との間の通信を高速化する。同社のAPJチャネル シニア・ディレクターのスティーブ・ディクソン氏は「Office 365にある10MバイトのPowerPointファイルをダウンロードするのに2分かかっていた環境であっても、数秒で開けるようになる」としている。

 高速化サービスを使えば、SaaSとユーザーの間でサイズの大きいファイルをやり取りするときに効果を発揮する。一方、メールやスケジュール管理といったサービスの使い勝手だけみれば、「遅延が問題になることはほとんどない」(サイオスの栗原氏)。

IaaS/PaaSは遅延を考慮すべし

 一方、ネットワーク遅延に起因する(B)のシステムのエラーは、IaaSやPaaSで発生する。例えば、ネットワーク遅延がほとんどないオンプレミスの環境で運用していたプログラムをそのまま移行すると、ネットワーク遅延によってシステムがタイムアウト処理をしてしまう場合がある。このため、IaaSやPaaS上で動かすプログラムは、ネットワーク遅延を考慮した設計にし直す必要がある。