OKIデータが、日本で運用していた基幹系システムをマレーシアのデータセンター(DC)に移行するプロジェクトが本格的にスタートしたのは、2011年10月のこと。移行の重要課題を洗い出した後、それらの課題についての対策を2012年1月まで検討した。
工場の稼働率を上げるためデータ移行は最短で
検討事項は多岐にわたる。「従来のハードウエア/OS環境からLinuxのクラウド環境に移行することで、周辺システムへの影響がないかどうか」「応答速度などシステム移行に伴いエンドユーザーに迷惑をかけないかどうか」など、NTTデータのエンジニアを交えた打ち合わせを繰り返した。
特に頭を悩ませたことが、「データ移行作業期間をどれだけ短くできるか」だった。基幹系システムには、工場の生産管理システムなども含まれる。データの移行作業中は、工場の操業も止める必要があったのだ。
実はその頃、主力工場があるタイでは、大洪水によって工場の操業が止まっていた。システムを移転する4月末から5月は、工場が復旧してフル稼働の増産体制が想定される時期と重なった。データ移行のために工場を止める時間が長引けば、事業への影響が特に大きくなる。
システムも既存ハードウエアのリース切れ期間ギリギリであるため、移転時期は動かせない。「遅れたりやり直したりするなどの失敗は許されない状況だった」(経営情報部課長の久保浩治氏)。
日本からマレーシアへのシステム移転では、SAPのERPパッケージをそのままクラウド環境に移し替える。アプリケーション開発は不要だったが、システムのチューニングには2カ月を要した。
AS/400で稼働していたときと同じように利用できるようにするには、データベースなどのチューニング作業が必要だった。テストデータを使って何度も性能を評価し、チューニングを繰り返した。作業時間は、2012年2月中旬から4月中旬までかかった。
増産体制の工場を止めるな
4月20日、プロジェクトチームは、基幹系システムをマレーシアのDCに移転する最終判断を下した。プロジェクトのクライマックスが、日本で稼働している基幹系システムのデータを、マレーシアのDCにある新システムに移す作業だ。だが、そう簡単に移行できるものではなかった。
基幹系システムのデータ容量は、数テラバイトに上る。「とてもネットワーク経由では、安全に送信できるものではない」(久保)。そこで考えたのが、ポータブルハードディスクを使った空輸だ。従業員の手でマレーシアのDCに運ぶことにした。
ここでプロジェクトチームは、時間の壁に直面する。データの移行中は基幹系システムを全面停止する必要がある。土曜と日曜以外の工場停止時間は、月曜日だけの最小限に抑えることになった。その結果、プロジェクトチームがデータ移行に割ける時間は、わずか72時間だった。
この短い時間で、日本にあるシステムからデータを抽出し、東京・三鷹のDCからマレーシアのDCにデータを運搬。さらに、新システムにデータを移し替え、検証作業も終えなければならない(図2)。しかも、飛行機の遅延や飛行中の事故、ハードディスクの損傷といったことも想定しておく必要がある。