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著者に聞く

 東日本大震災と原発問題で、危機管理に注目が集まる。第一人者の著者は新著で「リーダーの能力に依存していては、組織的な危機管理能力は高まらない」と喝破。組織の壁を越えて“突っ込み合う”風土が不可欠と指摘する。

(聞き手は小林 暢子=日経情報ストラテジー)

著書では、東日本大震災直後の首相の福島第一原発訪問は危機管理上正しいとしている。

樋口 晴彦氏樋口 晴彦(ひぐち・はるひこ)氏
警察大学校警察政策研究センター教授。1961年生まれ。東京大学経済学部卒業後、国家公務員上級職として、愛知県警察本部警備部長などを務め、内閣官房内閣安全保障室への出向なども経験。2003年より現職

 緊急時には最高責任者が状況を正しく把握することが不可欠だ。そうした意味で、首相が現地に赴くことで、内閣官房や東京電力を介した伝言ゲームでなく、迅速に情報を得る効果があった。

 とはいえ、危機管理をリーダーに過度に依存することには問題がある。トップが強いリーダーシップを発揮しないと、危機を乗り越えられない組織はそもそもおかしいと考えた方がいい。

 「危機のマネジメントに必要なものは」とよく聞かれる。短時間に大量の情報が発生し、限られた時間とマンパワーで処理していかなくてはいけないという制約条件こそあるものの、本質的には日常的なマネジメントと変わらない。普段の仕事を活力を持ってこなしている組織は、危機への対応能力も高い。長年危機管理やリスク管理を研究してきたが、最近は「いい会社」のあり方にも興味を持ち、本著でもいくつかの事例を挙げている。

危機にも強い「いい会社」の条件とは何か。

 いろいろあると思うが、1つはコミュニケーションだろう。普段から組織の壁を越えて、違う部署に対しても「そのやり方はおかしい」「こうした見方もあるのではないか」と突っ込みを入れられるような組織は、危機対応でも結束できるし、それ以前に危機の芽を潰すことができる。原発に関しても、長年携わってきた関係者以外の人が、客観的に問題を指摘できる風土があれば、事前に対策を講じられた部分もあったのではと感じる。

コストとのトレードオフで安全対策が手薄になっていることも問題として指摘している。

 コスト削減は企業のみならず官にとっても重要な課題だが、短期的かつ部分最適の帳尻合わせに終始している例も多い。その象徴が安易な外注頼みだ。

 例えばコストの安いソフト会社に経理システムの開発を任せると、経理部門にとってはIT(情報技術)コストを削減できたことになる。ところがそのシステムでバグが頻発し、ユーザーが手作業で修正したり、システム部門が説明に回ったりするとその人的コストは膨大になる。部門最適が全体最適を妨げる典型だ。

 こうした外注頼みが人命にかかわる仕事にもまん延している。価格競争で勝ち残ることだけに血道を上げるのではなく、「うちは他社よりも安全だから、その分高いお金をいただきます」ということを堂々と言える経営者が出てきてもいいのではないか。

組織の失敗学

組織の失敗学
樋口 晴彦著
中災防新書発行
945円(税込)