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 ソニーやサントリー、OKIデータのように、日本で使う基幹系システムをアジアに移すところまで踏み込む日系企業はまだ少数派。だが、そこまではいかないものの、アジア各国に分散しているシステムを集約する動きは盛んになっている(表2)。

表2●日本を除くアジア地域のシステムを、タイなどのデータセンターに集約している主なユーザー企業の例
表2●日本を除くアジア地域のシステムを、タイなどのデータセンターに集約している主なユーザー企業の例
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 もちろん日本に集約するのではない。アジア拠点用のシステムを1カ国に集めるやり方だ。

 その際、まず候補地となるのがシンガポールと香港のDCである。海底ケーブルの陸揚げの多さや自然災害の少なさ、電力インフラの充実度などの各種条件が良く、世界中のDC事業者が巨大なセンターをこぞって建設しているからだ。システム集約に適したDCが次々と生まれている。

 だが、アジアの「DCハブ」として人気のシンガポールと香港に対抗して、急速にDCの需要が拡大しているのが、タイとマレーシアだ。

 その一つであるタイには、日系企業が約6000~7000社が進出しているとされる。日系企業の一大生産拠点としての重要度が増しているタイを、クラウドなど技術の進化に合わせてアジアのシステムの拠点に据える企業が出始めているのだ。まずはタイのDCを活用事例を紹介しよう。

赤シャツ事件を機にDC利用

 「会社の窓から見下ろすと、赤いシャツを着た人だらけで道路が真っ赤。ぞっとした」。ホンダトレーディングアジアの森田充IT部部長は当時を振り返る。

 バンコク中心部で、各国の大使館が並ぶ大通り「ワイヤレスロード」。この通りに面したビルに、アジア統括本社を置くのがホンダグループの専門商社であるホンダトレーディングだ。

 森田部長はここで2010年の“赤シャツ事件”に遭遇する。赤いシャツを着た反政府デモ集団が主要な大通りを埋め尽くし、都市機能が麻痺した。

 ホンダトレーディングアジアのオフィスもデモが落ち着くまで閉鎖した。当然、オフィスに置いていた業務システムには誰も近づけなくなった。その後はしばらく、バンコクから北に50キロメートルほど離れた倉庫兼支店で仕事を続けることになる。

 この間、ネット経由でシステムを使えたので業務は止まらなかったが、何らかのトラブルでシステムが止まっても、現場で復旧作業はできない。「システムが動かなくなったらどうしようという不安に、デモが収束するまで付きまとわれた」と、森田部長は明かす。

 この経験から、「オフィスにシステムを置いておくのはリスク」と考えるようになる。同社は当時、基幹系システムをマイクロソフトのERPパッケージ「Dynamics」で刷新する作業を進めていたこともあり、アジア統括本社がありコストも安いバンコクのDCで新システムを運用することを決めた。

写真3●ホンダトレーディングがタイで利用するNTTコミュニケーションズのデータセンター
写真3●ホンダトレーディングがタイで利用するNTTコミュニケーションズのデータセンター

 まず既存のシステムをNTTコミュニケーションズのDCに移した(写真3)。その後、新システムも同DCに構築。既存システムからDynamicsへの刷新を2012年1月に終えた。

 これを機に、バラバラに構築していた東南アジア地域の会計などの基幹系システムをバンコクのDCに集約することも決めた。

 バンコクに設置したDynamicsを、販売や購買、会計などの業務のためにアジア各国の拠点から使い、ガバナンス強化とシステム運用・保守の負荷削減につなげるのが狙いだ。2014年4月までに、インドやベトナムなどアジア地域の7カ国15拠点からタイのシステムを使えるようにしていく。

図4●日系企業がタイのデータセンターにアジア地域のシステムを集約する主な理由
図4●日系企業がタイのデータセンターにアジア地域のシステムを集約する主な理由
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 東南アジアのシステムをタイに集約すると決めたのは、ホンダグループにとってタイが重要な地域であるからだ(図4)。グループの多くの工場が集まるため、ホンダ本体はタイに統括拠点を設けている。同社向けの自動車部品の調達などを担当するホンダトレーディングも、タイをエリアの統括拠点とする。

 ほかの東南アジア諸国にはIT専任の担当者はいないが、統括拠点のタイには専任のIT要員がいることも、システム集約地としての決め手となった。タイのDCはシンガポールに比べて電力や通信インフラなどの面で劣るが、低コストである点も評価した。

 DCへのシステム集約により、現状に比べて運用や保守の業務工数を2割は減らせると見込む。赤シャツ事件を契機にシステムをDCへ移していたので、2011年の洪水時でも不安なく業務を続けられた。