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もう一度、UXが語られるようになった背景を振り返ってみよう。

 テクノロジーの進化が生活者の日常生活を便利にしている。便利になると人々はその便利で満足しなくなり、より便利で快適な環境を求め始める。インターネットが流行り、回線速度も高速になり、PCの性能は更に向上、スマートフォンが登場し手の中のPCのようになっている。タブレットは、比較的大きな画面で高品質な画像や映像を楽しめる。このようにテクノロジーは生活者のシモベのようであり、生活者に尽くしているように見える。

 UXはそういったテクノロジー進化の表層で出現するUI(ユーザーインタフェース)であり、テレビだろうがPCだろうがスマートフォンだろうがタブレットだろうがゲーム機であろうが1人の人間の目の前に出現し、経験されるものだ。1人の人間にとってそれはどの企業から提供されるものだろうが関係なく経験してしまうものなのである。生活者はUXが優れた商品やサービスを経験してしまうと、そうでないUXのものは、より使いにくく感じ、自然と離れて行ってしまうだろう。IT企業だろうと、メーカーだろうと、食品会社だろうとUXという点に関しては同じ土俵に立つ可能性が増えていくだろう。

 例えば、昨今多くの企業がEコマースを考えるであろうが、その場合、UXと言う点ではライバル企業だけが競合ではないのである。企業は優れたUXのEコマースプラットフォームに乗るか否かが重要、もしくは自社で優れたUXのEコマースサイトを立ち上げなければならない。商品、値段で差別化できないのであればUXで差を付けなくてはならない企業も出てくるであろう。これは逆の言い方をすれば、商品、値段で多少負けていてもUXが優れたサービスを提供することで逆転の可能性も出てくる場合もあるかもしれない。

UXは戦略的課題

 つまりUXは多くの企業にとって戦略的課題になるということだ。それはテクノロジーの進化が生活者のニーズを満たし続けてきた結果、企業よりも生活者優位の社会ができあがったからに他ならない。特にコミュニケーション領域が顕著である。インターネット、高速回線、スマートフォン、タブレット、SNSなどを駆使しての日常生活はあらゆる領域を縦横無尽に行き来して人々がコミュニケーションできる生活なのである。人々はそういったテクノロジー進化の恩恵を即座に受けることができるので変化が早い。が、一方で企業は個人程の速度では変われないのだ。企業で社員へのスマートフォン導入、あるいはダブレットを導入して営業マンのセールス資料を見せるツールにする、会議をSNSで行うといったことはセキュリティの問題から導入するにしても時間とコストがかかるであろう。

 UXは、そういった高速で進化するあらゆるデバイスの表象に出現し、それを使いこなす者がどんどん経験価値を高めて経験価値を進化させるのを促進していく。企業は、そういったUXに関して進化した人々を意識しつつ、自らもある程度の速度で進化して行かねばならないだろう。理想的には企業のUXは、それを使う生活者と同じ速度で進化していくことである。ユーザーとのコラボレーションが重要で、企業戦略にも成り得るのだ。

水川 毅(みずかわ たけし)
電通 第4CRP局プランニング・ディレクター
東京大学大学院学際情報学府卒。1990年電通入社以来コピーライター、CMプランナーを経て、1998年以降インタラクティブ領域のビジネスに従事。Webの制作ディレクターを経て2005年以降は新規事業開発に携わる。スマートフォンアプリの開発から、プラットフォーム開発、企業戦略まで業務範囲は広い。