雑誌のインタビューで、こんな質問を受けた。
「トイレで同僚と上司の悪口を言っていたら、当の上司が個室のトイレから出てきて、2人とも息をのんでしまいました。こんな時、どうしたらよいでしょうか」
ありそうな話だ。「聞かれてしまった以上、謝るしかないでしょうね」と質問した記者自身が言い、私も「悪びれずに、思いきり『申し訳ありませんでした』と謝ることですね」と応じた。
すると記者は、「立場を変えて、個室で悪口を聞いてしまった上司はどうしたらいいんでしょうね」と面白い質問をしてきた。
考えられる選択肢として、
(1)個室から出ないで、2人が立ち去るのを待つ
(2)個室から出て、彼らに「おっ、何の話かな」と聞かなかったフリをする
(3)同じく個室から出て、「言いたいことがあったら、オレの前ではっきりと言え」と大声で怒る
(1)は、陰湿でいやらしい。素知らぬ顔をして、部下にチクリと嫌味を言うタイプ。(2)は、悪口を聞いた上司のたしなみで、「とぼけてみせる」ことも時に必要と、お勧めの向きもあるだろう。「上司も大人として、このくらいできなくちゃね」というわけだ。
とはいえ、部下が悪口を言った事実に変わりはない。聞いた上司としても腹が立つのは当然だ。怒りたい自分の気持ちを正直に口に出して、怒ればよい。従って、私の選択は(3)がベスト。
近頃、怒らない技術などがもてはやされて、「大人げない」「みっともない」と、怒りを抑制する傾向が強い。だが、抑えてばかりでは、本音のつながりは生まれない。もちろん、「怒る」といっても、思い通りにいかない部下に腹を立て、突然切れたりするのとは違う。「怒るべきだ」との判断に基づいて怒るのだ。相手の言い分がもっともなら、受け入れる。自分の間違いだと気づいたら謝る。
上司と部下のつながりが深まるのは、そのような上司の態度によってではないだろうか。
話し方研究所 会長
