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 企業情報システムを担うITのプロは“ネット”の世界を遠巻きにしがちだ。本書の著者が広めた「ロングテール」や「フリーミアム」といった言葉は知っていても、一般企業に勤務し不特定多数に向けた営利事業に携わっていると、自分事として受けとめにくい。しかし今回の「メイカーズ」は避けて通れない。リアルな製造業の「これからの10年」を論じているからだ。

 メイカーズ(作り手)とは全ての人間を指す。「人間は生まれながらのメイカーズで、もの作りへの愛情は、多くの人々の趣味や情熱の中に生きている」と本書は説く。3次元プリンターやレーザーカッターなどデジタル工具の登場により、アイデアさえあれば自室で製品を作れる時代になった。工具を用意せず、PCから設計データを製造請負会社に送ってもよい。製品の注文はネットで受け付け、アイデア段階で対価を払ってもらえれば資金がなくても製造業を始められる。

 著者自身が実践者である。米IT誌「WIRED」編集長を務める一方、自動操縦できるラジコン飛行機の製造キットを販売、2012年に500万ドルを売り上げる勢いという。ハード設計や関連ソフト開発はラジコン好きのコミュニティーが担当、著者は自社製品をオープンソースならぬ「オープンハードウエア」と呼ぶ。

 このムーブメントが進むと「人件費は比較的高くても機敏さにもっとも優れた先進国へと、製造業の振り子は戻」り、「協創やコミュニティーによる開発を大切にする社会が勝つ」。その社会こそ米国だ。電子工作から国家の競争力へ話を広げるのは強引のようだが、自動車やロケットのメイカーズ事例を読み進めると、日本の将来も明るいのではないかと思えてきた。

 製造業の未来はさておきITのプロにも本書は示唆を与える。第一は欲しいものを自分で作る姿勢の清々しさである。オープンハードの自動車メーカーは最終組み立てを顧客に任せる。「買い手が製品を作る場合には、製造物責任と消費者保護の規制も緩和される」。リコールも関係ない。「自分で作ったのだから、自分で直せる」。IT関係者には痛烈である。第二はソフトの可能性は無限大ということ。「ハードウエアは今ではほとんどソフトウエアといってもいい」。第三は全編に充満する楽しさだ。メイカーズであるITプロの仕事は本来楽しいものである。

MAKERS

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クリス・アンダーソン著
関 美和訳
NHK出版発行
1995円(税込)