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 もうすぐ総選挙だ。しかし、争点がはっきりしない。いや、たぶん多すぎるのだろう。原発、TPP(環太平洋経済連携協定)から消費税、景気対策、領土問題、日銀問題まで、争点とされるテーマがたくさんある。加えて多党化現象である。マスコミは各党を平等に扱おうとするから、ますます争点が見えなくなる。「争点の数×党の数」だけ情報が氾濫する。

(編集部注)本記事はメールマガジン「日経BPガバメントテクノロジー・メール」2012年12月10日配信号に掲載した記事を転載したものである

 思えば過去2回の総選挙はわかりやすかった。2005年の小泉選挙では郵政民営化に賛成か反対かが、そして前回2009年は自民党政治に終止符を打つか打たないかが争点だった。今回は民主党政治に終止符を打つか否かの選挙なのだが、問題は「再び自民党に任せて大丈夫だろうか」という点である。

 そこで第三極に期待が集まるが、小党乱立気味である。そんな中、自治体の首長として実績を上げてきた嘉田・橋下両氏に注目が集まるものの、いつの間にか石原氏、小沢氏がくっついている。「なんだかなあ・・・こんなはずだったっけ?」と戸惑うのも無理はない。政党の顔が2枚看板というのは、そもそもわかりにくい。一方、既存政党もリーダーはあまり魅力的でない。民主は地味な野田さん、自民は再登板の安倍さんで、どっちも悪い人ではなさそうだ。しかし非凡なリーダーシップは期待できず、あまりワクワクしない。

 各党に大きな政策の違いはない。おそらく今度の選挙の真の争点は政策ではない。また、党首の看板政治家でもない。おそらく価値観を巡る選挙になるのではないだろうか。

今回は「価値観」を巡る選挙

 価値観とは、特に(1)消費税、(2)原発、(3)TPP問題に対する各党の姿勢のことである。なぜ、この3つか。

 (1)の消費税増税は、国民にとっては手痛い政策であると同時に、政府あるいは国をどこまで信頼するかという問題でもある。

 (2)の原発は、従来型の大量消費社会、成長優先の経済政策の是非を問う課題である。原発維持を唱える人は従来型の資本主義の拡大再生産を前提とし、反対を唱える人はそもそもなぜそんなに経済成長する必要があるのか、命を直視せよと主張する。

 そして(3)のTPP問題は、容赦ないグローバリズムにどう対峙(たいじ)するかを迫る。これも価値観を巡る問題である。賛成派は、グローバリゼーションは避けられず、またそれを利用して国内改革や経済成長を目指すべきと考える。反対派は、地域の暮らしを守るためにはグローバリゼーションは悪だと考える。中には江戸時代、わが国は鎖国したおかげで植民地化を免れ、同時に落ち着いた文化や技術の蓄積ができたではないかと主張する向きもある。

 以上まとめると、(1)は中央集権と国家への信任問題、(2)はポスト資本主義、脱経済成長モデルの模索、(3)はグローバリゼーションへのスタンスを、それぞれ象徴する課題であるように思える。

課題に対する姿勢の3類型

 さて、この3大課題に対する各政党の姿勢は大きく分けて3つある。すなわち、「A:現実的変革志向型」「B:理念的是非判断型」「C:状況対応型」に分かれる。

 一番わかりやすいのは、(1)(2)(3)の全部あるいは一部に絶対反対を唱える政党である。これは「B型」である場合が多い。一方「C型」は、目の前の現実を見て、いわゆる大人の対応をとる政党である。この典型は自民党だろう。また民主党もこの3つについては「C型」といえる。

 これに対し「A型」というのは、条件を留保しつつ、避けられない流れには乗る、あるいは、むしろ利用するという現実的アプローチをとる。維新の会がこの典型だろう。維新の会は、消費税は上げざるを得ないという見通しに立ちながら、この際、地方税にせよと主張する。増税は、新規の財源が生み出されるめったにない機会である。その資金を中央の財源にしてしまっては中央集権は打破できない。だからこの機をとらえて地方税化しようと主張する。

 原発も同じだ。すでに多数の原発があって、それに依存するという現状から出発しつつ、代替エネルギーへのシフトを志向する。また、TPPについては自由貿易促進の立場から交渉には参加する。だが、無条件でコメの関税撤廃などを認めるわけでもない、まずは参加してからというスタンスだ。

 3つの問題に対する各党の姿勢をそれぞれ見ていくとさまざまなバリエーションが出てくるが、本筋は全体的にA型か、B型か、C型かで区分することができる。そして政策的には似通っていても価値観を巡る姿勢が全体的に違えば、連携は難しくなる。

 過去2回の選挙の本質は、「政権維持」を巡る選挙、しかも自民党の現政権を残すか、変えるかの選挙だった。結果として小泉氏は残留を決め、麻生氏は決別を強いられた。それに対して今回の選挙は「政治の価値観」を問う選挙になるのではないか。その意味では自民か民主かの違いはあまり大きくない。どちらもC型だからだ。

 これに対して「未来」「みんな」などはB型でスタンスは明確だろう。自民でも民主でもしょせんは状況対応するだけでダメだ、価値観を転換しようと訴える。一方、「維新」はA型という新種である。橋下氏はそれを「実行力」と表現する。それは新しい価値観だが、政策的にはC型に似たものにも見える。これら3つの価値観の違いがうまく有権者に伝われば、どの党が勝利を収めても歴史に残るいい選挙になったといえるのだろう。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一
慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。大阪府・市特別顧問、新潟市都市政策研究所長も務める。専門は経営改革、地域経営。2012年9月に『公共経営の再構築 ~大阪から日本を変える』を発刊。ほかに『自治体改革の突破口』、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』、『行政の解体と再生』、『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。