前回は読者の方々に「日本のSEはこのままで良いのか」という問題提起をした。そして次のようなことを述べた。
日本のSEは、技術偏重気味でビジネス意識に乏しい。視野も狭い。そして仕事に対して受身で営業や顧客などと壁を作る。その上、往々にして営業や会社のやり方にフラストレーションを感じている。その背景には「IT技術に強いSEは優秀だ」という考え方や「顧客への体制図やSEの人月の提示、SEの常駐」など人売り的ともいえるやり方、「売るのは営業、受注した後のシステム開発などを行うのがSE」といった業界の風潮がある。しかし、業界の長年の歴史を見るとこれらの風潮や人売り的ビジネスのやり方は依然として続いている。
おおよそこのようなことを述べたが、きっと読者の中には、「なぜ、顧客への体制図の提示や常駐などがSEの仕事に対する姿勢やビジネス意識などに関係するのか」と疑問を持つ人もいるだろう。その疑問は分かるが、ぜひ若い時代に体制図の下で常駐的に仕事をしたSEとそうでないSEを比べてみてほしい。きっと前者のSEの方が受身意識が強く視野も狭くビジネス意識なども乏しいはずだ。
それは、SEというものは、若い時代の経験をもってSEとしての考え方や価値感がだいたい決まるからである。ついでに述べると、若いSE時代に中小顧客を担当したSEの方が大手顧客を担当していたSEより一般的に能動的で視野も広くビジネス意識も強い。それは中小顧客は一般に体制図や人月の提示や常駐などを要求しないし、IT企業の方も積極的には体制図などを提示しないからである。
一通り前回の内容をまとめたところで、ここからは、その続きを述べる。
SEと言う職業はIT技術に引っ張られ易い
ではなぜ、日本のIT企業は30年も40年も「IT技術を良く知っているSEは優秀だ」という風潮や顧客への体制図や人月提示、常駐と言うビジネスのやり方にメスを入れることができないのだろうか。それについて筆者の考えを述べたい。読者の方もぜひ一緒に考えてみてほしい。
まず、「IT技術に強いSEは優秀だ」という風潮についてだが、これは多くのSEがシステムやネットワークやOS、データベース、プログラム言語などのIT技術を過剰に大事なものと考え、ビジネス面やアプリケーション面などを軽視しているからであろう。
ではなぜ、SEは技術面を過剰に考えるかだが、まず、SEに限らず技術屋というものは技術に強くなることでやる気が起こる。これは技術屋の本能である。またSEの仕事では、技術的に高度なシステム設計や難しいトラブルに対する対処は、技術に強いSE、技術に詳しいSEでないとできない。するとSEは、技術に強くなりたいと燃えている若い時代は「自分もあんなふうに仕事ができるようになりたい、あんなふうに難しい仕事をやってみたい」と誰しもが思う。
その上、IT技術に強いSEは、周りのSEから分からない点を聞かれるし、相談も受ける。ある意味、いい格好ができる。また若いときは分からなかったことが分かると、利口になったように思う。もちろん達成感もある。そして、毎日の仕事が面白い。
顧客対応においても、IT技術を良く知っていると顧客の技術的な質問にもサッと答えることができる。一方、質問に答えられないと恥だと思う。それやこれやでSEは若い時代は「IT技術に強くなりたい」と願うようになるのだ。 またSEマネージャーも、往々に若いSEに「そんなことも分からないのか」と技術面のことばかり言う。ビジネス面の話はほとんどしない。それも、IT技術に強くなりたいと思っている若いSEの気持ちを後押しする。