最終回の今回は、エンタープライズモバイル導入/展開の具体的な進め方や考慮すべきポイントと、その中心を担うIT部門の姿を説明していく。
エンタープライズモバイル導入/展開において考慮すべきポイント
今までの各回の中でも述べてきたことだが、エンタープライズモバイルの導入/展開における重要なポイントは、新たな業務プロセスを創造し、モバイルありきでシステム基盤を構築、そしてそれを多くの組織を巻き込みながら進めていくことにある。
それは、従来のシステム導入の考え方や進め方では、上手くいかない、もしくは十分な効果が出ない可能性があるとも言える。そうならないためには、従来のシステム導入の方法にとらわれない、新たなモバイルを前提とした考え方や進め方を用いる必要がある。
そもそもエンタープライズ領域におけるモバイル活用の本質は、「現場の今をリアルタイムに把握し伝達することができる」、「その場でコトを完結させることができる」などにある。
しかし、その本質を捉えた活用の姿に決まった形はない。実際には、世の中の先進事例やテクノロジーに対する感度の高い人からアイディアを収集し、実際の現場で活用しながら(試しながら)新たなアイディアを発見、創造することを繰り返しながら進めていくこととなる。
では実際に、どのような事を意識しながら進めることが重要なのか。以下にその主なポイントをあげる。
・始めに「何を実現するのか」「期待効果は何か」を明確にする
モバイルを活用する目的は、業務の役割やそのやり方を変えるといったビジネス変革を実現する業務改革や業務効率化などにある。そのため、常に実現したいことが何で、その期待効果が何かを明確にすること、意識していくことに主眼を置くべきである。これは、モバイル導入に限らず、当たり前のことだと思われるかもしれない。時に見受けられるシステム導入自体が目的になってしまうことを避けるために、これを今まで以上にこだわる必要がある。
IT部門が導入/展開の主管である場合は言うまでもない。業務部門が主管であったとしても、モバイル活用の企画や計画立案段階からIT部門は参画すべきである。なぜなら、世の中の技術トレンドや事例をIT部門の視点から意見していくことが重要だからである。IT部門は、基幹システム導入をはじめとした、様々なIT導入の経験部門であるため、企画や計画段階からその知見を生かしていくことができる。
・従来のシステム導入の発想を転換する
従来のような要求仕様にもとづく要件の定義というやり方ではなく、実現したいことに基づくリエンジニアリングのやり方を持ち込むことが重要となる。それは、段階的にレベルアップしていくBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の実施と同様のものである。
さらに、モバイルアプリケーション構築に関しては、人の活動に合わせた業務プロセスを創りあげ、その業務利用シーンごとに必要となるシステム機能を適用していくため、そのシーンごとの用途に合う、シンプルで使いやすい機能のモバイルアプリケーションを構築していくこととなる。これは従来の業務アプリケーションのような機能盛り込み型で、時に複雑なアプリケーションを構築することとは異なる発想である。もちろん、これが実現できるのは、多くのシステム導入を経験しているIT部門のみである。
また、IT部門は、最新技術や事例を活用することも視野に入れる必要がある。新しい技術や活用方法が生み出されることで、新たにできることが増えるためである。