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 サンノゼからハイウエー101を南に下ること3時間あまり。にんにく畑を抜け、ジョン・スタインベックの小説「怒りの葡萄」の舞台や油田から油をくみ上げる「Nodding Donkey」(うなずくロバの意味)を横目に見ながら、太平洋が見えたところでグローバービーチに着く。距離にして東京から名古屋の手前くらいまでだろうか。この町には知る人ぞ知る、海底ケーブルの陸揚局がある。

知る人ぞ知るグローバービーチの陸揚局、海底ケーブルを支えるスタッフの心意気

 その海底ケーブルの名称は「PC-1」。サービス開始から12年がたつ。同ケーブルを所有していた米パシフィック・クロッシングはバブル崩壊で一度破産したが、その後、着実に再建。現在はNTTコミュニケーションズグループの一員(2009年に買収)として日米間の通信を支えている。

 PC-1の海底ケーブルの総延長は2万1000km。日米間2ルートのリング構成になっており、グローバービーチのほか、ワシントン州シアトル郊外のハーバーポイント、日本の茨城県ひたちなか市(阿字ヶ浦)と三重県志摩市にも陸揚局がある。東日本大震災では震源域に重なった部分で切断の憂き目に遭ったが、志摩とグローバービーチを結ぶルートは被害を受けず、被災したルートの迂回先となった。

 PC-1のサービス品質は、物理的な構成もさることながら、海底ケーブルを守るスタッフの士気の高さに支えられている。ケーブルの所有者が誰になろうと、愛する海底ケーブルと心中しても構わないと覚悟を決めている。グローバル通信は海底ケーブルが最後の拠り所である。切れたとなれば修理船が現場に向かい、その部分がたとえ水深7500m以上でも海底から引き上げて直す。陸揚局は昼夜を問わず、修理船と連携しながら復旧にまい進する。

帯域増強でも厳しい競争

 インターネットのトラフィックは増える一方。だが、海底ケーブルの敷設には莫大な費用がかかる。さらに、環境規制の厳しいカリフォルニア州では、海底ケーブルをそう簡単に陸揚げできない。となると、既存のケーブルの帯域を増強するしかない。各ケーブルとも数年前に10Gビット/秒の伝送装置にアップグレードしたばかりだが、今年から100Gビット/秒の商用利用が始まる。大容量伝送競争の幕開けの一方で、生き残りをかけた価格競争も厳しい。単なる値下げに走れば投資余力がなくなり、品質の維持もおぼつかなくなる。変化の荒波の中で、難しい舵取りを求められている。

 日本からはるばる届いたケーブルは「ビーチマンホール」を介して陸揚局につながる。グローバービーチの風は強く、冷たい。目の前の海が寒流であることを思い知らされる。だが、ケーブルはシリコンバレーやロサンゼルスの熱気を今日も運んでいるはずである。

住本 隆弘(すみもと たかひろ)
NTTコミュニケーションズの海底ケーブル保有会社であるPC LandingのCEO(最高経営責任者)。1990年代にフランス留学(HECのMBA)と勤務を経験。米国生活も約3年を迎え、フランスとの違いにもだいぶ慣れてきた。昔は鉄道少年、今はドライブが趣味で、米国ならではの長距離運転を楽しむ。西海岸暮らしによる体形の変化に歯止めをかけるべく、娘たちのマラソン大会で保護者として伴走予定。