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 「マクロ経済政策は成長の環境づくりには役立つが、リスクを冒して実験的な試みをし、イノベーションへとつながる投資をしながら実績を作るのは、各々の企業そのものだ」。原著は2011年刊行だが、冒頭の記述は2013年の日本に向けて書かれたかのようだ。

 原題には“Rethinking Your Business”という言葉が見える。サービスに着目してビジネスモデルを変える。その際に著者がかねてより提唱している「オープンイノベーション」(社内外の知識活用)を取り入れる。著者は強調していないが、本書で紹介される事例の大半はIT利活用が前提になっている。以上が「あなたのビジネスを再考する」方法である。

 サービスとは顧客により良い体験をしてもらうための活動を指す。製品偏重ではなく製品とサービスを組み合わせる、ものづくりからことづくりへ、顧客やパートナーとの共創(コ・クリエイト)やコラボレーションが重要といった主張と同じである。こうした主張をすでに見聞きした読者からすると多少の重複を感じるかもしれないが、本書の記述はとにかく簡潔で分かりやすい。一晩でサービス中心のビジネスイノベーションの考え方と手法、大企業と中小企業そして新興経済国における実例、今後の課題さらには戦略論の系譜(監訳者解説)までを頭に入れられる。

 ビジネスの再考にあたっては経営者と各部門の関係者全員が本書の内容を基礎知識として持ってから始めることが望ましい。一人でも製品偏重や自前主義あるいはIT度外視の関係者がいると話が噛み合わなくなる。「これまでとは異なる考え方と姿勢で臨むことが求められる」との指摘があるにもかかわらずである。

 情報システム部員はビジネスに弱いなどというあらぬ誤解を避けるためにも本書を通読しておくとよい。事例を読めばイノベーションに直結するIT利活用を把握できる。その取り組みを今すぐできないとしても目指す姿を知っておくことは必要だ。本書に登場するようなIT利活用であれば経営者は関心を持つ。

 様々な研究報告や事例を的確に引用して論を進めていく著者が大学のサービス研究の遅れに言及したとたん「自分たちの主導権を脅かす新たな動きに懐疑的な終身雇用の教授陣が保身に走っている」と痛烈な一文を書いているところが面白かった。

オープン・サービス・イノベーション

オープン・サービス・イノベーション
ヘンリー・チェスブロウ 著
博報堂大学
ヒューマンセンタード・オープン
イノベーションラボ、
TBWA\HAKUHODO 監修・監訳
阪急コミュニケーションズ 発行
2310円(税込)