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 「これからはCMO(最高マーケティング責任者)がITをリードする」。最近、IBMなど外資系ITベンダーが一斉にそう喧伝し始めた。この話を聞くと、企業のCIO(最高情報責任者)やIT部門は内心穏やかではいられない。IT予算の権限がシフトすることを心配するからだ。

 だが、とりあえず心配は無用だ。ITベンダーが狙っているのは、顧客企業のIT予算という従来の財布ではない。狙いはずばり、テレビCMのための巨大な財布。ソーシャルメディアの普及などによって、CMに費やす巨額のお金の一部がネットに溶け出すかもしれない。それを当て込んでITベンダーが一斉に走り出したというのが真相だ。

 実は、CMOというかマーケティング部門は既にITにかなりの予算を使っている。なんのことはない。ネット広告などネットマーケティングに費やす費用だ。この予算は別にIT予算から分捕ったものではない。広告費、特に新聞・出版などの活字メディアへの広告費をシフトさせたものだ。

 つまり、IT部門の管理する予算と無関係に、これまでもマーケティング部門が“IT予算”を自ら作り出してきたわけだ。そのIT予算がグーグルなど巨大なネット企業を育てた。実は、IBMは2000年ごろにネットマーケティングやEC(電子商取引)の本格普及期にも、「CMOの時代」を喧伝したことがある。しかし、当時はCMOが持つ“IT予算”は、既存のITベンダーではなくネット企業を潤した。

 そして今、マス広告の“王様”であるテレビCMが焦点になってきた。口コミ効果のほうがテレビCMより効果が大きいケースも出てきたため、「少なくとも成熟商品ではテレビCMは費用に見合う効果はない」と断言する企業経営者も出てきた。一方、ソーシャルメディアに対する経営者の関心や問題意識は、IT部門には及びもつかないくらいに高くなりつつある。

 IBMなど既存のITベンダーにとっては、今度こそ顧客企業の“新たなIT予算”をネット企業に総取りされてなるものか、である。なんせ、BtoC型のテレビCM費は巨額だ。仮にその1割が溶け出せば、大企業なら1社当たり年間で数十億円規模に達する。まさにITベンダー垂涎の規模である。

 こうしたマーケティング部門の予算は、基本的に経費であり投資ではない。だから、ITベンダーの提案も「こんなシステムを作りましょう」ではなく、「こんなサービスを利用しませんか」となる。特にソーシャルメディアなどを活用したマーケティングのベースとなるビジネスアナリティクスのインフラをクラウドとして提供したり、ビッグデータ解析をサービスとして提供したりすることを狙っている。

 そんなわけで、CIOやIT部門は「CMOの時代」だと言っても、それを理由に自らのIT予算が削られることを心配する必要はない。ただし、このままではビッグデータ活用など最もホットなITの新領域に、CIOやIT部門が関与できる余地はほとんど無くなるだろう。

 なにしろ、どんな企業でもIT部門とマーケティング部門との連携はよくない。売り上げを作るのが仕事のマーケティング部門にとっては、セキュリティをうるさく言うだけで動きの遅いIT部門は一緒に仕事をしたくない存在だ。だから、これまでもネットマーケティングなど最新のITトレンドにおいて、IT部門は蚊帳の外だったわけだ。

 既存のITベンダーは今までIT部門を顧客にしていたが、少なくとも外資系は「CMOの時代」と宣言することで、最新ITのホットゾーンである蚊帳の内に入る決意を示した。さて、IT部門はどうするのか。極言すれば蚊帳の外もありだろうが、そのときIT部門に残される仕事ははたして楽しいものだろうか。