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 日経コンピュータ3月21日号で「強い企業は逆境でも勝つ」という特集を書いた。ITを活用したビジネスのイノベーションの重要性について述べた記事だが、その取材過程の中で驚いたことがあった。それは、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が実施したイノベーションに対する調査結果だった。

 今、日本企業の経営課題はビジネスのイノベーションとグローバル化に集約される。特にビジネスのイノベーション、つまりビジネスモデルやビジネスプロセスを変革し新たな付加価値を生み出すことは、全ての企業にとって必須の課題と言ってよい。それぞれの企業で経営トップが毎日のように「ビジネスのやり方を変えろ。新規事業を考えろ」と部下を叱咤しているはずだ。

 しかも、ほとんどの場合、ビジネスのイノベーションにITは不可欠。クラウドやスマホ/タブレット、ソーシャルメディアなど最新のITをいかに活用するかが、ビジネスのイノベーションを成功させる上で重要なポイントとなる。つまり、ITをこれまでのような業務の効率化のための“道具”ではなく、イノベーションのための“武器”とする必要があるわけだ。

例えば、ビジネスのイノベーションの事例として特集で取り上げたコマツの「KOMTRAX」は、ITがダントツの競争力を生み出した。世界中の30万台の建設機械に取り付けたセンサーからの情報を分析することで、今やコマツの経営陣は建機市場の将来を正確に予測できるようになった。

 ITによるイノベーションが競争力を左右するわけだから、企業のIT部門も変革を迫られている。では、IT部門はどれだけそのことを自覚しているのか。JUASが「企業IT動向調査 2013」の速報値として発表したビジネスのイノベーションへのIT部門の関与に関する調査結果は、まさにその疑問に答えるものだった。

 実は、この調査結果を見て二度驚いた。まず一つめは、ビジネスモデルの変革をIT部門のミッションとして明示している企業が全体の41.2%を占めたことだ。儲ける仕組みを変えるビジネスモデルの変革は、ビジネスプロセスの変革に比べて難易度ははるかに高い。それをミッションとするIT部門が4割を超えるというのは、なかなか頼もしい。

 ・・・と思った。だが、ビジネスのイノベーションを成功させるポイントへの回答結果を見て、もう一度驚き、そしてがっくりした。経営陣や社内各部門とIT部門の意思疎通の緊密さを挙げる回答は多いのだが、先端・先進技術の理解を上げた回答は、複数回答で1番目から3番目までを合計しても、わずか7.7%にすぎない。

 うーん、これじゃダメでしょう。IT部門が技術を常にウォッチして、「面白い技術があるのだけど、こんなふうに使えば新規事業に役立つのでは」といった提案を事業部門などに持ち込まないと、ITを使ったイノベーションなんてできないと思う。これではビジネスモデルの変革がミッションと言っても、「知恵を貸してくれ」との求めに対して「要件を出してくれたら何とかしますよ」という従来型のIT部門の姿しか浮かんでこない。

コマツの野路國夫会長は社長時代のインタビューで、「世界中にアンテナを張り、最新技術や世の中がどうなっているかを把握したうえで、そうした技術を使うというのがIT部門の仕事」と話している。IT部門が今まで通り受け身の姿勢を取り続けるならば、IT部門不要論すら出かねない。実際、経営トップから「君たちは要らない」と宣言されたIT部門もあると聞く。