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新技術を発掘し成果を刈り取る
新技術を発掘し成果を刈り取る
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 ガートナーは「CIOアジェンダサーベイ」の中で、CIOとIT部門に「静かなる危機」が訪れていることを指摘している。経営陣や事業部門がデジタル技術を駆使したイノベーションを希求するのに対し、安定的なシステム運用を第一義とするIT部門がその期待に応えられずギャップが開いてしまう。それが高じると、CIOやIT部門は企業での戦略的価値を失ってしまうというものだ。

 CIOやIT部門の意識変革を迫る提案は過去にもしてきたが、実際に危機が顕在化するのは、特に日本ではまだ少し先の話かもしれない。しかし今回は、あえて強い言葉を使うことで危機感を生むことを狙った。

 その1つが「ハンティング」。現在のIT部門の仕事の大半は、基幹システムを中心に現行のオペレーションとリソースを改善し、予算内で高品質なITを提供することに費やされてきた(右上の図)。こまめにシステムに手を入れて、最適化を図る様子を、庭の手入れになぞらえて「テンディング」と呼ぶ。

 しかしこれからは、平穏無事な庭から出て、サバンナに狩に出かけよ、というわけだ。最新技術を積極的に取り込み、ビジネス価値を生み出す。ハンターがライオンに襲われることがあるように、新技術を使いこなせずに失敗するリスクも当然高くなる。それでも一歩を踏み出すことが大事なのだと。

プロジェクトの完遂はゴールではない

 もちろんテンディングに手を抜いていいというわけではない。既存のシステムはしっかり運用しながら、新しい技術のハンティングにも乗り出す。CIOとIT部門の役割として、どちらも担っていくという覚悟が今求められているということだ。

 そこにトライするうえで鍵となるのが、もう1つのキーワード「ハーべスティング(収穫)」だ。既存のシステム運用と新技術の活用の双方から価値を生み出し、その成果をきっちり評価してPDCAサイクルを回す。ここにもしっかりと取り組んでいこうというわけだ。

 ここでいう成果の評価は、これまでIT部門がやってきたこととは違うものを指している。

 従来IT部門は、「納期を守ってシステムを開発できたか」「運用は順調か」「コストは下がったか」といった視点で評価されてきた。プロジェクトを完遂することそのものが評価の対象になってきた。

 しかしITの投資評価はそれだけではない。そうやって作った仕組みがビジネスにどれだけ貢献したか、事業への直接的な貢献を示すIT投資収益率 (ROIT)を明らかにする必要性が今後高まるだろう。

 これは簡単なことではない。例えばタブレットを使って、小売りの店頭で在庫確認ができるシステムを作ったとしよう。在庫照会時間の短縮や、従業員の生産性向上など、コスト削減効果は比較的容易に算出できる。しかし売り上げ増にどれだけ結びついたかを算出するのは難しい。売り上げが増えたとしても、システムで顧客の支持が増えたからなのか、魅力ある新製品が出たからなのか、なかなか切り分けられない。

 従来、IT化投資の回収責任はビジネス側にあると考えられてきた。しかし作った側のCIOとIT部門が投資回収に対して全く責任がないというのは違うだろう。仕組みを作り、ビジネスの変化に柔軟に対応しつつ、当初目標にしたリターンが継続的に得られるかどうかを検証していく。そうした役割もCIOとIT部門は担っていかなくてはいけないということだ。

 売り上げや利益に占めるITの貢献度を見える化する。定量的な評価ができなければ、定性的に評価する仕組みを作る。様々な工夫を凝らす必要があるだろう。そうしてROITを明らかにしてようやく、テンディングやハンティングに堂々とお金を使うことができる。そうした時代が近づいている。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
元ソニーCIO
長谷島 眞時(はせじま・しんじ) 1976年 ソニー入社。ブロードバンド ネットワークセンター e-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年にCIO (最高情報責任者) 兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長 CEOに就任。ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長を経て、2008年6月ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任した後、2012年2月に退任。2012年3月より現職。2012年9月号から12月号まで日経情報ストラテジーで「誰も言わないCIOの本音」を連載。