(イラスト・アニメーション:岸本 ムサシ)
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今回の回答者: NTTアドバンステクノロジ ネットワークテクノロジセンタ 主幹担当部長 森田 直孝 |
標準規格の文書なら無償で入手できそうですが、実際は標準化を担う組織などによって事情が異なります。近年、代表的な標準規格の文書は無償提供されるケースが増えつつあるようです。ここではネットワーク分野で広く採用されている「ITU勧告」「IEEE 802標準」「RFC」を例に紹介します。
「ITU勧告」はITU(国際電気通信連合)で決められる標準規格です。ネットワークに関する標準化は、電気通信標準化部門(ITU-T)が進めます。かつてのITU-Tでは標準規格の文書は参加メンバーしか見られませんでしたが、今は正式な勧告として承認された後なら誰でも無償でインターネットからダウンロードして閲覧できます。
「IEEE 802標準」はIEEE(米国電気電子技術者協会)の802委員会によって決められるネットワークに関する標準です。IEEE 802標準の規格の文書は、策定直後は有償で、半年から1年後には無償で誰でも入手できるようになります。標準化途中の審議で使われたプレゼン資料も、インターネット上で誰でも入手・閲覧できます。ただし、ドラフト段階の文書は基本的に参加メンバーしか見られません。
「RFC」はIETF(Internet Engineering Task Force)で決められています。IETFの標準化過程はオープンです。完成した標準規格だけでなく、規格を固めるまでにメーリングリストで交わされた議論や、ドラフト段階の文書もインターネット上で無償公開されており、自由に閲覧できます。
標準規格の文書を提供するポリシーの違いは、各組織の成り立ちによるものかもしれません。ITUの参加メンバーは国や企業に限られるので、標準化過程を一般公開する必要は少ないといえます。IEEEは学会に近い性質を持つので、会費を払った参加メンバーが優先的に文書を見られます。IETFは元々、誰でも議論に参加できる組織として始まりました。従って、標準化過程も透明性が高いのでしょう。