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 安倍政権のもとで経済財政諮問会議や規制改革会議が再稼働した。国民の豊かさを象徴する指標である一人当たりGDP(国内総生産)の拡大に向けた議論が始まった。だが、全国平均の数値が上がっても、地方はなかなか恩恵を感じにくい。人口縮減や高齢化のインパクトも加わり、今後の成功モデルが描きにくい地域が多いのではないか。

 地方の産業というと農業やものづくりというイメージがある。だが地方でも経済の主役は、もはやサービス業だ。日本のGDPの8割が内需で、その大半がサービス業である。新産業の育成や輸出振興も大事だが、優先順位が高いのは各地の地場のサービス業の生産性改善である。

サービス産業の規制改革が要

 大阪は大都会だが、失業と一人当たりGDPのレベル低下に悩む。この意味で抱えている課題は他地域と同じだ。そこで大阪府市統合本部では特にサービス産業の規制改革で生産性が上がるのではないかと考え、過剰あるいは時代遅れの規制を調べ始めている。

 大阪に限らず日本のサービス業の生産性はおしなべて低い。小売り、運送、建築、医療、介護など、いずれも零細あるいは家族経営が多く、規模の経済が働きにくい。事業主の高齢化で投資意欲も高くない。一方、その状況を打破するはずの意欲的な企業は、規制に阻まれ動けない。そこで統合本部ではそれを何とかしようと考えた。

 規制改革は国が長らく取り組んできたテーマだ。しかし各種書類をひも解くと、どうも「二階から目薬を落とす」的な要素が否めない。そこで大阪府・市は規制改革を国だけに任せず、自らも地場の事業者の身近な課題を掘り起こすことから問題提起していく方針だ。

 作業は途上だが民間事業者を取り巻く規制には、いろいろなものがあるとわかってきた。いわゆる「業法」のほかに、雇用、融資、土地、不動産、環境など各種規制がかぶさる。法令のほか、通達や条例、規則もある。

 たとえば土地の用途規制のために、住宅地の中に介護ステーションが作れない。住民のために必要な施設なのに「住居でないからだめ」といった“おバカ規制”である。あるいは米国ではベテラン看護師が医者の仕事を一部肩代わりするが、日本では許されない。また国の補助金が入った建物を他の用途に転用する場合には補助金返還を迫られる――など、いろいろなケースがある。

いまこそ「コンクリートから人へ」

 民主党が掲げた施策である「コンクリートから人へ」は一時、多くの国民の支持を得た。無駄なインフラを作らず、人が幸せになれる福祉や介護、医療、教育にお金を回そうという主張はまっとうだ。だが、財源不足のため一部しか実現できなかった。

 ここでむしろ着目すべきは、財源問題よりもこれらの“人にまつわる産業”の生産性の低さである。サービス産業は確かに手間がかかる。だが、だからこそITを使った効率化などでコストを下げると業績が好転する。その余力で新たな客のニーズに向き合うべきだ。

 筆者は本当の「コンクリートから人へ」というのは、予算の行き先変更よりも「ものづくり日本からサービス日本へ」という経済政策の転換だと思う。サービスの受け手は資産を持つ中高年が多い。規制改革で革新的な事業サービスが生まれれば、彼らは快く、お金を使うのではないか。うまくいけば彼らの保有資産がサービス購入を通じて若者たちに移転する。サービス産業の高度化は、世代間格差を是正する意義もあるのではないか。その意味で大阪府市統合本部では特にサービス業を巡る規制改革に着目している。

 次回は実際に府市統合本部で検討中の具体的な規制案件について考えてみたい。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一
慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。大阪府・市特別顧問、新潟市都市政策研究所長も務める。専門は経営改革、地域経営。2012年9月に『公共経営の再構築 ~大阪から日本を変える』を発刊。ほかに『自治体改革の突破口』、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』、『行政の解体と再生』、『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。