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 企業が消費者の関心を集めて囲い込む「アテンション(関心)・エコノミー」から、消費者が自らの意思で企業との関係を管理し選択する「インテンション(意思)・エコノミー」へと市場構造が転換すると説く書籍である。この主張は多分に仮説を含んでいる。他の近未来予測との違いは、著者が自らこれを実現するソフトウエア開発を主導し、実証を進めていることだ。

 これまで消費者を囲い込む手段として重宝されてきたのが、マス広告やCRM(顧客関係管理)システムである。しかしCRMは莫大な投資にもかかわらず、顧客満足度を4~5%高めたに過ぎないという。

 代わりに力を持つのは、消費者が企業との取引を管理する「VRM(ベンダー関係管理)」システムである。VRMは企業サービスの選択や組み合わせを支援するほか、居住地や購買履歴など自らの個人情報を管理する。一部情報は企業に開示し、見返りに最も好条件の取引を選別できる。著者は2006年からVRMの開発を主導し、複数のネット企業などが参画している。

 VRMの活用場面は次の事例が分かりやすい。ある会社員が1泊の出張旅行をスケジューラーに登録すると、VRMや関連ツールが連動し、最も良い条件を提示するホテルや航空会社を自動で予約。経費精算や出張報告もツール群が一気通貫で処理してくれる。近未来的に見えるが、技術的にはすぐにでも可能な話だ。

 企業の間では「囲い込んだ消費者」が利益をもたらすという考えが支配的だが、筆者は「意思を明確にする消費者」との取引の方が価値を生むという。「群衆から傾向を見いだすビッグデータよりも、一人ひとりが管理するスモールデータが価値を生み出す」という著者の主張は傾聴に値する。行政サービスについても言及しており、日本のマイナンバー制度でも参考になる示唆があると感じた。本書のように個人情報は自ら管理し、より質の高い行政サービスを利用する見返りに個人情報を交換するという仕組みは、電子行政を巡る諸問題を解決するヒントになるはずだ。

評者 村林 聡
銀行における情報システムの企画・設計・開発に一貫して従事。三和銀行、UFJ銀行を経て、現在は三菱東京UFJ銀行常務執行役員副コーポレートサービス長兼システム部長。
インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済


インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済
ドク・サールズ 著
栗原 潔 訳
翔泳社発行
2310円(税込)