もうPCで利用するシステムは作らない。作るとしてもスマートフォンで利用するシステムを優先する---。ユーザー企業において、システム企画・開発の優先度が大きく変わろうとしている。
PC向けのついでにスマホ向けを開発するのではなく、スマホ向けを主流に据える「スマホファースト」に取り組む企業が増えている。スマホファーストによって、ビジネスモデルやビジネスプロセスを大きく変える企業も出てきた。まずは、スマホファーストに先駆的に取り組んだアスクルの事例から見ていこう。
「売り上げへの貢献度を考えるなら、PC向けのシステムを優先して開発すべきだろう。しかし今回は、あえて“スマホファースト”にした」。アスクルのWeb戦略企画本部の佐藤満本部長は語る。
アスクルは2012年10月、一般消費者向けのネット通信販売事業に参入した。サービス名は「ロハコ(LOHACO)」。アスクルが得意とするオフィス用品だけでなく、食品や飲料、日用雑貨なども販売する。
注目すべき点は、サービスの立ち上げ方だ。PC向けの通販サイトではなく、スマホ向けの通販サイトを先に開発しサービスインした。スマホが普及しているとはいえ、ネット通販はPCサイトからの購入が主流だ。ましてやアスクルにとって、初めての一般消費者向けサービスである。にもかかわらず、同社はあえてスマホ向けサービスを先行させた(図1)。
スマホ優先で高速開発
なぜアスクルはスマホ向けサービスを先行したのか---。英断の背景にあるキーワードが「スマホファースト」である。
スマホファーストとは、スマホやタブレットなどモバイル端末で利用するシステムの企画・開発を、PCで利用するシステムよりも優先させることである。現在はPC向けを優先する「PCファースト」が主流だが、これを逆転させる。開発するタイミングだけでなく、予算配分や開発体制、開発プロセスといったIT戦略にかかわる様々な要素においても、スマホを最優先に据える。
スマホファーストの最大の利点は、システムの開発スピードを高められること。その結果、事業を素早く立ち上げられる。実際、アスクルは一般消費者向け通販へ参入を決めてからわずか半年で、ロハコのサービスを開始できた。日用品におけるネット通販は、国内総販売額全体の0.1%以下だ。この「空白地帯」を狙い、各社がしのぎを削っている。その中で少しでも早くプレゼンスを獲得するために、アスクルはスマホ向けサービスを先行投入した。
アスクルにとって、スマホファーストは将来を見越しての布石でもある。「数年後にはスマホ経由での売り上げがPC経由を逆転する」と、岩田彰一郎社長兼CEOは説明する。