
英国の政治学者パーキンソンが歴代の英国政府の観察を通して看破した法則「役人の数は仕事の量とは無関係に一定の率で増加する」は、各国で財政危機が叫ばれる中、さすがに盤石ではなくなってきたように思う。とはいえ、政府に限らず、組織のトップが組織を大きくしようとする傾向は今も昔も変わらない。
2009年3月から2011年8月まで米国政府の初代連邦CIO(情報統括官)を務めたヴィヴェク・クンドラ氏は、「組織を小さくすることこそ賞賛すべき」と力を込めて語った。連邦CIOを辞してから半年ほどたったころに、インタビューしたときの言葉である(関連記事『日本も政府CIOを置くべき、「クラウドは危険」は誤り』)。
米国政府のIT基盤投資の原則としてクンドラ氏が掲げたのが「クラウドファースト」。それにより、省庁や部局で合計2000を超えるほど増加していた政府のデータセンターの集約を推し進め、各省庁のシステム部門は縮小していった。
「それまで政府では多くの部下を抱え、たくさんの予算を確保できる人が優秀であり、昇進の機会が与えられていた」(クンドラ氏)。クラウドファーストを推進するにあたって、評価軸を180度転換し、部下を減らすマネージャを評価するように改めた。
組織・業務の効率化は、総論賛成でも、なかなか現場には意識が浸透しにくい。人事権や決裁権が縮小されることになる現場のマネージャは面従腹背になりがちだし、トップダウンで無理に人員を削減すれば現場スタッフにもモラールダウンが広がりかねない。
そうならないようにインセンティブに配慮して人事の評価軸を見直し、現場の意欲を引き出す“人心掌握術”を、連邦CIOという立場ながら、就任時にはまだ30代半ばの若さだったクンドラ氏が実践したことには新鮮な驚きを覚えた(関連記事・記者の眼「日本に30代の政府CIOは誕生するか」)。
連邦CIOを退任後、同氏はハーバード大学フェローを経て、2012年1月に米セールスフォース・ドットコムの新興市場担当エグゼクティブ・バイスプレジデントに就任した。米国政府で推進したシステムのクラウド化やオープンデータ戦略、IT投資最適化の動きが新興国に広がっていけば、日本を含む先進国の電子政府戦略にも大いに刺激を与えるに違いない。
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