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 「技術で勝る日本企業が、なぜビジネスで負けるのか」という議論が盛んだ。本書は革新的な製品やサービスを成功に導く、つまりイノベーションを起こすには、パートナーとのエコシステム形成が重要だと説く。

 「エコシステム」という言葉がよく使われるが、その意味を深く理解している人は少ない。本書はエコシステムには2種類の依存関係があると指摘する。自社のイノベーション達成には他社のイノベーション達成が必要だという「コーイノベーション」と、自社のイノベーションをパートナーが受け入れるどうかに成否が掛かっている「アダプションチェーン」である。つまり、この両方を視野に入れてエコシステム構築に取り組む「ワイドレンズ」が必要になるのだ。

 例えば米国での映画のデジタル上映システムは、ある金融システムの導入でアダプションチェーンの問題を解決したことで劇的に普及が進んだ。投資を渋っていた映画館オーナーに代わって第三者が最新設備の費用を負担し、映画会社がその第三者にプリント代などコスト削減分を配当のように支払ったのだ。

 本書の意義は成功と失敗の事例研究で終わらず、エコシステム形成のために見えていなかったビジネス環境を可視化し、未来を設計する多くのフレームワーク(手法)を提供していることだ。例えば「価値設計図」というパートナー間の価値連鎖関係を可視化するツールで、エコシステム設計方法を説く。このツールを用いて、なぜ米アマゾンの電子書籍サービスが成功し、ソニーがアマゾンに後れを取ったのかを見事に説明している。

 筆者は当初から完全なエコシステムを形成することは困難で、その必要もないという。それよりも本書が示すようなツールを利用してイノベーション達成の死角を明確にし、迅速に成功確率の高い対応を行うことが重要だと説明する。システム構築にとどまらず、事業への貢献もミッションとして背負うようになったIT部門のリーダーらにお薦めしたい。

 評者 甲元 宏明
大手製造業でシステム開発やIT戦略立案に携わり、2007年アイ・ティ・アール入社。シニア・アナリストとしてユーザー企業やITベンダーの戦略立案を指南する。
ワイドレンズ


ワイドレンズ
ロン・アドナー 著
清水 勝彦 監訳
東洋経済新報社発行
1890円(税込)


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