東京海上日動火災保険の宇野直樹常務とITリサーチ大手、ガートナー ジャパンの日高信彦社長が保険ビジネスのイノベーションについて語り合う対談の後編をお届けする(前編は『従来の視点をリセット、そうすれば何かが見えてくる』)。
リスクマネジメントに厳しい金融の世界にあって、東京海上日動は世界初の技術を使った挑戦的プロジェクトを繰り返してきた。宇野常務は「とにかく新しい何かを、とりあえず軽い乗りでもいいから始めてみる。挑戦する姿勢を維持し続ける」と語る。
(構成は谷島宣之=日経BPビジョナリー経営研究所研究員、中村建助=ITpro編集長)
日高:リーディングカンパニーである御社は、商品や事務プロセス、そしてそれらを支える情報システムを技術を含めてどんどん変えています。保険ビジネスの変化に関する見通しは伺いました(関連記事『従来の視点をリセット、そうすれば何かが見えてくる』)が、テクノロジーの変化についてはいかがですか。
宇野:これはもう、日高さんがいつも言っておられることではないでしょうか。これまでは企業がITを主導してきた。ところが今、タブレットとスマートフォンの時代になり、消費者、利用者が最新のITをどんどん使う。消費者や利用者がITを主導するように変わってきたわけですよね。

1977年東京海上火災保険入社、2008年東京海上日動火災保険 執行役員事務会計サービス業務部長、常務取締役ビジネスプロセス改革部長、東京海上ホールディングス常務執行役員等を経て2011年8月より現職。2013年6月下旬 東京海上日動システムズ社長就任予定
1976年東京外語大外国語部卒業後、日本アイ・ビー・エム入社。96年アプリケーション・システム開発部長。2001年アジア・パシフィックCRM/BIソリューション統括。03年4月から現職
(写真:的野弘路、以下同)
日高:ガートナーはその変化を「ITのコンシューマライゼーション」と呼んでいます。
宇野:その変化に乗り遅れると、ある日突然、市場からノーを突き付けられるかもしれないという不安はあります。これがITサイドから考える動機ですね。ITサイドと保険というビジネスサイド、両方の面から取り組まないといけません。
日高:いつごろからそういう不安を感じるようになりましたか。
宇野:スマートフォン(高機能携帯電話)が出てきたころでしょうか。あれはどう見ても電話機ではなくって、パソコンですよね。ただし今までのパソコンと違って、どこにいても使える。ということは従来と全く違った使い方が出てくる。システムの抜本的な改革をやっていた2008年、2009年ごろから何か違うことが起こると思っていました。
保険商品の手続きをタブレットからできるようにしたとお話ししました(『従来の視点をリセット、そうすれば何かが見えてくる』)。1年前、2012年4月からその仕組みを各地で展開しています。コンピューターを見ると、ホストと呼んでいた大型コンピューターからサーバー、パソコン、そしてタブレットやスマートフォンという流れがあり、転換点に私たちはいる。こう考え、タブレットの仕組みを開発する基本技術としてHTML5を採用しました。