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 「メモリーは高速だが揮発」「ディスクは遅いが不揮発」という前提が変わるかもしれない。フラッシュメモリーをディスクの代わりに使うという話ではない。主記憶そのものが不揮発になるということである。

 現在のコンピュータの主記憶といえばDRAMである。DRAMは面積当たりの記憶容量を増大させるために、キャパシターという情報の記憶場所を細長い円柱状にしている。微細加工技術により底面積が狭い細長い部品をシリコン上にたくさん並べており、それを現実世界に投影するなら、東京スカイツリーよりも細くて高い建物がたくさん並んでいるような世界だ。これ以上細長い円柱構造を作るのは難しく、DRAM技術に限界が迫っているといわれている。

 そこで期待がかかるのが次世代の不揮発性メモリーである。有名なのは「SST-RAM」「ReRAM」「PCRAM」の三つだ。いずれも数十ナノ秒というDRAM並みのスピードでアクセスでき、高密度化の見通しが立っている。かつ、不揮発という特性を備える。量産化や品質の面で越えなければならない壁は高く、メモリーコントローラーにも一段の進化が必要であるが、いずれそれらの壁は乗り越えられるだろう。乗り越えたとき、どんな世界になるのか想像してみよう。

 DRAMは電源が切れるとデータが消えてしまう。だからOSをシャットダウンする際にDRAM上のデータをディスクに書き出さなければならなかった。サスペンドしていたマシンを再立ち上げする場合、保存しておいたメモリーイメージを逐一ディスクから読み戻さなければならない。しかし、もしDRAMがすべて不揮発性メモリーになると、データは電源が切れてもそのまま残っているのでマシンの立ち上げは一瞬だ。ファイルの整合性を確認する処理は不要。電源断の処理もすぐ完了する。

 このため「ノーマリーオフコンピュータ」が実現できる。通常は電源が入っていないコンピュータで、必要になったとき電源を入れると瞬時に処理が実行されるコンピュータである。普段は電源オフでよい、という点がポイントだ。モバイルや各種センサーデバイス、医療機器など、応用範囲は広い。

 今のコンピュータは、電源が入っている間はCPUが稼働し続けている。PCの場合、たとえ利用者が使っていない待機状態でもアイドル処理を行っている。筆者のPCを調べたところ、85%が待機状態だった。ノーマリーオフコンピュータでは待機状態なら電源を切ればよく、省電力性は極めて高い。

 エンジニアの皆さんにぜひ想像してほしいのは、データベースのアーキテクチャーへのインパクトだ。ジャーナルファイルは不要になるかもしれない。多くのデータベース製品はコミット要求をジャーナルに書き込んでいったん完了し、後でバックグラウンドでデータファイルと同期を取っている。だが不揮発性メモリーが使われると、直接データファイルを更新すればよく、ジャーナルに書く必要はない。

 データは常にメモリーにあり、ハードディスクは二次的なバックアップとなる。ジャーナル不要でスケーラブルなインメモリーDBのようなアーキテクチャー。これが、不揮発性メモリー時代のデータベースのデファクトになるのではないだろうか。

漆原 茂(うるしばら しげる)
ウルシステムズ 創業者兼代表取締役社長。2011年10月よりULSグループ代表取締役社長を兼任。大規模分散トランザクション処理やリアルタイム技術を中心としたエンタープライズシステムに注力し、戦略的ITの実現に取り組んでいる。シリコンバレーとのコネクションも深く、革新的技術をこよなく敬愛している