データ分析に冷ややかな見方をする人がよく口にするのは、「そんな先のことなんか分かるのか?分かれば苦労はない」というもの。
こんな見方に、日本を代表するデータサイエンティストはこう答える。
「予測はピタリと当たるのかと聞かれれば、それは難しい。だが一定の誤差の範囲内であれば予測は当たる」
この人物は、花王の大路延憲・情報システム部門統括付部長。大路氏は全社のSCM(サプライチェーン・マネジメント)再構築プロジェクトに参画し、新製品の需要予測などデータに基づく業務プロセスの再設計を推進してきた日本のデータ分析の先駆者だ。

花王に限らず、多くの企業にとって在庫の最適化は永遠のテーマであり、需要予測システムを開発するところは少なくない。だが、どんな企業でも「需要予測システムを作ったところで、そもそも予測など当たらない」という声が出てくる。
読者の中にも「予測は意味があることなのだろうか」と疑問を持つ方が少なくないかもしれない。記者も心のどこかに「将来など予見できるはずがない」と思っていたこともあり、大路氏にこうした疑問をぶつけた。すると冒頭のような回答が返ってきた。
データサイエンティストになるには、「予測を当てる」を信条にして、成果を出す心意気と努力が欠かせない。実際、花王は様々な日用品について、過去の生産量や販売量の動向を分析し、日々の需要を予測し、在庫の最適化を図っている。
需要予測システムを構築したことで、商品在庫を30%削減したり、欠品レベルを従来の3分の1に減らしたりするなど成果を上げている。花王にとって、過去の実績データを分析し、その分析結果を生かした経営のスピードアップは、厳しいグローバル競争に打ち勝つために不可欠な取り組みだ。