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 著者のショーンベルガー氏はプログラマーや起業家として成功した後、情報法学と公共政策の研究に転じた。クキエ氏はIT分野のベテラン・ジャーナリストで英エコノミスト誌のデータ・エディターだ。ビッグデータの全体像、特に社会への影響を論じるには最適なコンビといっていいだろう。

 ビッグデータはITの進歩に依存する部分のみが注目されがちだが、本書によれば、むしろ既存の情報を掘り起こし、組織的に活用する努力に本質がある。5章で紹介する近代航海術のパイオニア、アメリカ海軍のマシュー・モーリー中佐の例は印象が強い。19世紀半ば、モーリーは倉庫に放置されていた大量の航海日誌に注目した。チームを作って位置、風速、海流、天候などを手作業で抽出し、大西洋の海図上にプロットさせた。記録地点はやがて120万カ所に達した。モーリーが整理した情報によって帆船の速度は2倍になり、安全性も大幅に向上したという。著者は「モーリーは、膨大なデータに特別な価値があるというビッグデータの基本理念をいち早く見抜いた」と評する。

 著者はビッグデータの特徴として「限りなく全てのデータを扱う」「個々のデータの精度より量が重要」「因果関係から確率的相関関係へ」という三つの側面を指摘する。モーリーの航海日誌情報の収集と利用もこれらの条件を満たしているのが興味深い。

 実は情報化時代に入ってからのビッグデータの商業利用も歴史は意外に古い。アマゾン・ドットコムは当初、専門家による書評委員会によって顧客に「おすすめ」の本を紹介していた。しかし1998年にユーザーの購入データの相関分析による推薦に切り替えた。現在は同サイトの売上高の3分の1が人工知能による「おすすめ」から生まれているという。

 本書は成功事例に加え、プライバシーと個人情報の商業利用のバランスをどう取るかなど新たに浮上した課題についても詳しく論じている。ビッグデータの本質と射程を大づかみに理解するのに好適な一冊だ。

 評者 滑川 海彦
千葉県生まれ。東京大学法学部卒業後、東京都庁勤務を経てIT評論家、翻訳者。TechCrunch 日本版の翻訳を手がける。
なぜなぜ分析 管理


ビッグデータの正体
ビクター・マイヤー=ショーンベルガー 著
ケネス・クキエ 著
斎藤栄一郎 訳
講談社発行
1890円(税込)