当社でシステム基盤の開発・保守などを担う「ITサービス本部」に、保険申込書といった書類のデータ入力業務を運営するチームがある。このチームが業務改革のために「フューチャーセンター」の仕組みを試してみたところ、「まるで魔法をかけられているかのように」課題と改善案が整理できた。「おおげさな」と思う読者の方もいると思うので、議論の一部始終と二人の感想をお伝えしよう。
筆者が所属する保険業界では、保険の契約者や申込者から様々な書類を受け取り、その内容をシステムに入力することで、事務処理が進んでいく。当社には、こうしたデータ入力業務を担う専門チームがある。このチームは、システムの開発・保守の際に、アプリケーションの設計・開発チームからデータ入力の対象となる書類の改定などについての提案を受け付け、その提案をレビューする。改訂内容が確定したら、設計・開発チームによるテストを支援し、本番サービスを提供する。
チームに所属するのは、池田さんと熊谷さんの女性二人だ。今回、このデータ入力業務を対象に、書類変更の受け付けからサービス提供までにかかる日数を短縮できないかと検討してもらった。データ入力業務については、以前から上司に「改革してみよう」と指示されたり、あるいは自分たちで「改善してみよう」と考えたりしたことがあった。だが、なかなかいい案がまとまらなかったという。
そこで今回は、試しに「フューチャーセンター」の仕組みを適用してみたそうだ。フューチャーセンターとは、難しい問題について、未来を想像しながら対話によって解き明かすための場のことだ。特定のテーマにかかわるすべてのステークホルダーが一堂に会し、発想力を駆使して、創造力と情熱を主体的に生み出すのが目的である。
データ入力業務について、フューチャーセンターで2時間半のワークショップを2回実施しただけで、大きく一歩を踏み出すチャレンジテーマが浮き彫りになったという。二人の感想コメントをベースに、ワークショップの一部始終を報告しよう。
ワークショップの参加メンバーは全部で5人。池田さん、熊谷さん、二人の先輩と上司に、「ファシリテーター」である。ファシリテーターはワークショップの運営者だ。会社から歩いて2分のところにあるビルが、その場である。まずは、フューチャーセンターに向かいワークショップを始めるまでと開始直後の二人の感想から。
- 会社から一歩出ることによって開放感が感じられた
- 会議というよりも対談している感じで、堅苦しさがなかった
- 緊張をほぐすため、お互いに愛称で呼び合ったりゲームをしたりすることで、上司が同席している感覚がなくなってきた
- 間違いを恐れず何でもまずは言う、人の意見を否定しない、などの基本ルールが説明されて、5人の一体感が生まれたと思う
- ファシリテーターが第三者であり、考え方や議論の組み立て方を客観的な立場でリードしてくれたために、いろいろな意見を言うことができた
会社での普段の会議とは、まったく違う「場」がいいらしい。多くの人がそうであると思うが、上司との関係もあり、会社ではあまり本音で問題点を言えないものだ。できそうもないことを提案するのも難しい。このワークショップでは、会社で働くときのフォーマル感を脱ぎ捨てていることで、思っていたことが大胆に言えたようだ。
人の意見は否定しないというルールがあることで、普段は「違っているかもしれないから言わないでおこう」と考えることでも、素直に言えるようだ。