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 海外の拠点を転々として仕事をしていると、拠点を移るたびに新しい環境に慣れるのに骨が折れた。例えば、同じ米国でも、東海岸と西海岸では雰囲気が全然違っていて驚かされた。何事にもオープンで親切に助け合う雰囲気があった西海岸に対し、仕事に臨む姿勢もアグレッシブで、些細なことでも責任の所在を明確にしたがる東海岸では、残念ながら同僚との関係がぎくしゃくしたり、摩擦が生まれることもあった。英国に転勤した時は、物事の判断をはっきり言ってくれない人が多いのに驚いた。

 海外で、今まで付き合ったことのない考え方をする人や仕事の進め方、状況に直面した時、これを「カルチャー・ギャップ」として片付けてしまうケースを散見する。僕はこの言葉を使うのにとても抵抗がある。「カルチャーが違うから」と言った瞬間に脳が思考停止に陥り、うまくいかない根本原因を追究したり、機能的に問題解決をしていこうとする意欲が少なからずなえてしまうように感じるからだ。大切なことは、国内であれ海外、今までとは異なる状況に直面した時、どういう姿勢で臨むか、自分なりの考え方を持っていることだ。

コミュニケーションとカンバセーションは違う

 同質のカルチャーを共有している組織と、そうでない組織では確かに意思疎通は難しくなる。いわゆる「あうんの呼吸」も成立しない。ならばどうするか。コミュニケーションの質を上げるよう、意識的に努力するしかない。

 コミュニケーションはエンジニアリングだと僕は考えている。単に語学力に依存するのではなく、コミュニケーションの問題を「正確に伝える技術力」と「受け止める技術力」を磨くことだ。例えば、相手に仕事を頼むときには「いつまでに」「どのように」やってほしいかを具体的に伝える。言いっぱなしではなく、それが相手にちゃんと伝わっているかをチェックする。これを日々心がけることで、コミュニケーションの質は確実に上がる。正確に伝えるために、時間と手間を惜しんではいけない。

 コミュニケーションはカンバセーション(会話)とは違う。その国のカルチャーを理解しつつ、同僚同士で会話が弾み、お互いが理解を深められればそれに越したことはないが、それができなくても仕事はできる。

 日本企業が新興国を中心とした海外展開に本腰を入れるなか、進出先の国のカルチャーを社員に学ばせようというニーズは高まっていると言われる。その国を深く理解するという意味において、とても良いことだと思う。しかし、それが業務におけるコミュニケーションのためだと言われると、少々違和感を感じる。どんな組織にもコミュニケーションの問題は存在する。ましてや、国が変わればコミュニケーションの問題はさらに難しくなるのも事実だと思う。だからこそ、コミュニケーションの問題を単に言葉やカルチャーの問題として扱うのではなくエンジニアリングの問題とし解決していく姿勢や努力が大切なのだ。

 日々のコミュニケーションに目先の効率を求める前に時間と労力を惜しまず、正確に伝える努力」と「受け止める努力」を続けるほうが、長い目で見るとずっと効率が良い組織への近道だと思う。どんな職場にいても、チームとして力を出し、成果を上げる原動力になり得るのだ。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
元ソニーCIO
長谷島 眞時(はせじま・しんじ) 1976年 ソニー入社。ブロードバンド ネットワークセンター e-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年にCIO (最高情報責任者) 兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長 CEOに就任。ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長を経て、2008年6月ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任した後、2012年2月に退任。2012年3月より現職。2012年9月号から12月号まで日経情報ストラテジーで「誰も言わないCIOの本音」を連載。