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 ソニーのCIOになって、半年か1年経ったころだと思うが、意図的に外部の情報を遮断していた時期がある。「中途半端に世の中のことを知らないほうがいい」と思っていた。

 ちょうどIS Rebornという包括的な改革プロジェクトに着手した時期だった。誤解を恐れずに言うと、もともと、他社との相対的な比較によって自らのあるべき姿を探ろうとしたり、正当化の手段として利用するベンチマークという手法は好きではなかった。その時期は特に、他社の情報を耳に入れないようにしていた。他社がどうであれ、業界がどうであれ、自分たちがやると決めたことを粛々と実行していく時期であった。外部の情報は時としてノイズにしかならないことがあるのだ。

 当時、講演などを頼まれる機会もあったが全てお断りさせていただいた。何をするかを話すのではなく何をしたかが話せるまで時期尚早と考えていたからだ。

 2008年、ガートナー ジャパンのイベント「Gartner Symposium/ITxpo 2008」でゲスト基調講演の依頼を受けた。ちょうどプロジェクトが一区切りついた時期でもあったので、受けさせていただいた。ソニーのIT部門を代表して自分たちがやってきたことを、世の中に問う良い機会だと判断したからだ。自分の話を聞いてくれる皆さんの反応や、講演後の反響で、世の中における自分たちのポジションを初めて認識した。

 結構いけてるんじゃないの、と。

世に成果を問うことを恐れるな

 前回も書いたが、一般的に、IT部門の社内における位置付けは高くないし、その担っている役割の重要性も、ややもすれば軽視されがちだ。「それが仕事なんだからやって当たり前」くらいに思われている。

 しかし外で話すことによって、自分たちの取り組んできたことの価値をちゃんと評価してくれる人がいることに気づいた。

 これはIT部門にとって大きな達成感になった。仕事で1つの区切りがついた時に、それを評価してもらうことは次に向けた準備にもなる。私の講演を聞いた部下から「感動した」と言われた時に、そういう効果もあるんだなぁと思いつつもやや複雑な気持ちだった。少々整理はしたものの内容はいつも社内で、話していたのと同じだったからだ。だが彼らにしてみれば、自分も加わった取り組みの成果を、上司が大勢の人に伝えたことが晴れがましかったのかもしれない。

 それ以降、仕事の節目に外で話す機会があると、年に何回かは引き受けるようにしてきた。正直なところ、「自分はこんなことをしたんですよ」と人に話すのは気恥ずかしいものだし、準備にも時間がかかる。それでもIT部門の仲間が達成感を得る機会を自分で積極的に作っていくことが、次のモチベーションにつながるのだと思いやってきた。

 CIOやIT部門で働く人には、自分たちの成果を外に向けて発表する機会を作ることをお勧めしたい。講演でも勉強会でも論文でもいい。世の中に成果を問うことには勇気を必要だが、これまでやってきたことを整理し、次のステップを考える良い機会になる。もしかしたら厳しい評価を受けるかもしれない。しかしそうした場に敢えて臨むことで、得られるものは大きいはずだ。そして、最も大きな効果はIT部門の元気につながることだと思う。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
元ソニーCIO
長谷島 眞時(はせじま・しんじ)1976年 ソニー入社。ブロードバンド ネットワークセンター e-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年にCIO (最高情報責任者) 兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長 CEOに就任。ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長を経て、2008年6月ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任した後、2012年2月に退任。2012年3月より現職。2012年9月号から12月号まで日経情報ストラテジーで「誰も言わないCIOの本音」を連載。