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 第1回の冒頭で、ビッグデータも行動観察も、そもそも何のために行うのかと問題提起した。そして私は「ビジネスの意思決定に寄与するためである」と述べた。

 米国の経済学者であるマイケル・ポーター氏は「(企業が最も陥りやすい戦略上の間違いの)最たるものは、最高を目指して競争すること」と述べている(書籍『マイケル・ポーターの競争戦略』、ジョアン・マグレッタ 著、早川書房)。

 すなわち、「他社と同じ道を行き、そのなかで自社が他社よりもよい結果を出そうとする」のは間違いであるとしている。

 ポーター氏の言う競争戦略とは「企業は最高を目指して競争する代わりに、独自性を目指して競争する(同上)」ことである。他社と同じ土俵で戦って最高を目指すのではなく、他社とは違う「自らの土俵」を創って、そこで利益を上げることを意味する。

 他社と違う土俵を創るというのは、これまでの枠組み(フレーム)とは違う枠組みを生み出し、その枠組みを実行していくことを意味する。他社が成功しているやり方を「正解」として、それを模倣することではない。他社が成功しているやり方は「これまでの枠組み」にすぎないのである。

 私はイノベーションというものは「これまでの枠組みのなかで改善すること」ではなく、「新しい枠組み(土俵)を創ること」であると考えている。ポーター氏も「最高を目指す競争は模倣による競争である」とし、「独自性を目指す競争はイノベーションによる競争である」としたうえで、独自性を目指して競争することを強く主張している(同上)。

 そうであるならば、第1回で取り上げた2つの課題「どういう映画を作れば若い人たちを動員することができるか」「どのようなサービスを提供すれば、もっと電車を利用してもらえるか」のソリューションを考えて、しかもイノベーションを生み出すには、これまでの枠組みを模倣するのではなく、「自ら新しい土俵を創る」ことが必要になる。

 そして、新しい土俵を創ることはビッグデータ“のみ”で可能なのだろうか。書籍『ビッグデータの正体』では、この点について明確に記述されている。引用しよう。

(略)発明のひらめきは、データには語れない。まだ存在していないのだから、いくらデータ量を増やしたからといって、裏づけや確証が得られるものではないのだ。自動車王ヘンリー・フォードには「車がない時代に、『欲しいものは何か』と人々に尋ねたら『もっと速い馬が欲しい』と答えただろう」という有名な発言がある。おそらくフォードが消費者の欲しいものをビッグデータのアルゴリズムで調べたとしても、きっと「速い馬」という答えが返ってきたはずだ。

 つまり、ビッグデータ“のみ”では「新しい土俵を創る」ことはできない。

 このように、人間の行動や感情が関係する「狼少年が許されない課題」については、行動観察とビッグデータの組み合わせが相互補完的で、非常に有効であることを理解いただけたと思う。