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 スティーブ・ジョブズ亡きあと、「IT業界のカリスマ経営者」の座を継ぐのは誰か――その筆頭に挙げられているのが、アマゾンの創業者兼CEO、ジェフ・ベゾスである。

 アマゾンはもはや、単なるECサイトではない。AWS(Amazon Web Services)や音楽・動画配信サービスの提供など、グーグルやアップルに並ぶIT企業として君臨する。その一方で即日配送の実現など、現実世界のビジネスにも莫大な投資をしており、一種の生活インフラ企業になりつつあると言っても過言ではない。

 最近では、小型の無人ヘリを使って荷物を空輸し、注文から30分以内で宅配するという「Amazon Prime Air」サービスを計画中であると発表した。このユニークかつ強力な企業をつくり上げたのがジェフ・ベゾスである。今後のITおよびビジネス界を占う上で、彼を知ることは必要不可欠と言えるだろう。

 本書はベゾス研究本の決定版となる1冊だ。約480ページのボリュームの中に、彼の生い立ちから性格、経営スタイル、そしてアマゾンが直面してきた問題に至るまで詳しく記されている。出版界からの評価も高く、フィナンシャル・タイムズ紙とゴールドマン・サックスが共催した「ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー2013」を受賞している。

 ただし、本書を通じて描かれるベゾスの姿は、決して良い印象のものだけではない。ワーク・ライフ・バランスの概念を毛嫌いし、競争相手を叩きつぶすことに微塵(みじん)のためらいももたず、さらには社員にも同じ姿勢を強要する――日本であれば「ブラック経営者」と揶揄(やゆ)されてしまいそうだ。

 これこそが過酷なビジネスの現実であり見習うべき、と捉えるか、反面教師とするかの判断はさておき、本書は手加減することなくベゾスの「表と裏」に切り込んでいる。

 本書に書かれているエピソードを読んで、ベゾスに偏執狂的な側面を見る人も多いはずだ。やると決めたらあらゆる手を尽くし、必ずやり遂げる。それがベゾスという経営者と、その分身であるアマゾンが持つ顔の一つなのである。

 先ほどのAmazon Prime Airサービスが発表された際には、多くの人々が疑問を投げかけ、なかには「株価対策として注目を集めているだけだ」という批判もあった。確かに、宅配に無人飛行機を使うなど「狂気の沙汰」と言われても仕方が無いし、実現までにはいくつものハードルを乗り越えなければならない。

 しかし本書に登場する元アマゾン幹部の1人は、ベゾスについて、「現実を直視して意思決定ができる人物だ」と評している。ベゾスは因習にとらわれず、物理法則以外に彼を縛るものはないとも言われる。そんな経営者が“超即日配達”に乗り出すという話を、荒唐無稽の一言で片付けて良いのか。本書を読み終えた後には、ベゾスやAmazonへの印象が大きく変わっていることだろう。

 評者 小林 啓倫
日立コンサルティング シニアコンサルタント。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業、国内ベンチャー企業を経て現職。ビジネス書の翻訳も手がける。
ジェフ・ベゾス 果てなき野望


ジェフ・ベゾス 果てなき野望
ブラッド・ストーン 著
井口 耕二 訳
日経BP社発行
1890円(税込)