派遣制度の見直し案が固まったことでもあるので、問題提起する。ITベンダーの技術者なら請負仕事よりも、客先への派遣で働いたほうが“面白い”のではないかと以前から思っている。労働者派遣法の改正で懸念されることの一つが、偽装請負の蔓延。グレーな請負の一員として働くぐらいなら、すっきりと派遣で働いたほうがよい。
ただし、派遣先は同業のITベンダーではなく、ユーザー企業でなければダメだ。後述するが、ユーザー企業では今、派遣技術者に対するニーズがどんどん高まっている。それは人件費の抑制といった後ろ向きの理由からではなく、できる人がほしいからだ。大規模開発が集中する「2015年問題」による技術者不足が懸念され、派遣制度の見直しで派遣に対する関心も高まっている今、“できる技術者”にとって派遣は大きな機会となる。
その「大きな機会」の具体例だが、まず古典的な話から書き始めることにする。ある大手ITベンダーの営業担当者から聞いたトホホな話だ。少し前の出来事だが、この営業担当者は、自分が担当する中堅企業が基幹系システムの刷新を検討していることを知った。なにせ大手ベンダーの営業担当者だ。中堅企業の顧客にまでなかなか手が回らない。その顧客へは前回のシステム刷新以来、随分足が遠のいていた。
自分のうかつさに舌打ちしたが、早速その顧客を訪問することにした。ただ、営業担当者はそれほど心配していなかった。当然ライバルのITベンダーが営業活動を行っていることは容易に推測できたが、その顧客はシステムを最初に導入して以来、一貫してこのITベンダーのシステムを使い続けている。客先に常駐させている技術者の評判が顧客にすこぶる良いことも、プラス材料だった。
実は、その技術者はこのITベンダーの社員ではない。前回のシステム刷新の際に開発を丸投げした下請けのITベンダーの社員で、運用・保守業務の要員として客先に派遣されていたのだ。ただ、その真面目な仕事ぶりと問題解決能力を顧客は高く評価していた。
そんなわけだから、久しぶりに訪問した顧客企業の応接室に、その技術者が情報システム部長に伴われて入ってきた時、営業担当者は「よし! 今回も大丈夫だ」と思ったという。システム部長には「ウチのような弱小企業はもう御見限りかと思っていたよ」と皮肉を言われたが、全く平気。だが、挨拶が済んで着座しようとしたとき、「あれっ!」ということが起こった。