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 安倍政権の規制改革が、いまひとつ芳しくない。いわゆる岩盤規制が壊せないようだ。そんな中、薬のネット解禁が一大事、かつ象徴的事例のように語られているが、本当にそうか。なぜなら薬はネット販売になっても需要拡大があまり見込めない。単に売り場が代わるだけで、むしろ地方都市での雇用減につながるのではないか。それよりもっと大事なテーマがたくさんあると思う。特に重視したいのが国(中央)による地方(自治体)向けの規制である。

官官規制

 よく言われる話だが税金の6割は自治体で使われる。また、各種規制の現場は実は霞が関ではなく、また省庁の出先機関でもなく、自治体なのである。ところが自治体は国の各種規制に縛られ、経営改革すらままならない。

 筆者がかかわる大阪市の地下鉄民営化の場合、たとえば経営形態をめったなことでは変えられないようになっている。元凶は地方自治法である。

 地方自治法は、条例で決めた事業の経営形態の変更(たとえば民営化)の際には議会の3分の2の議決が必要と決めてよいとしている。だが本当にこれほどまでの縛りを国がお膳立てする必要があるだろうか。まるで憲法改正並みの厳格な縛りである。営団地下鉄(現・東京メトロ)の場合は、閣議決定だけで民営化が決まった。国営なら簡単なのに、公営だと極めて厳しくなる。

 もうひとつある。公債の繰り上げ償還が事実上、極めて難しい。大阪市営地下鉄の場合、大昔に借りた長期で高利率の借金が残っている。民間の金融機関ならばいまどき住宅ローンでも何でも、低金利に合わせた繰り上げ返済ができるのは当たり前。しかし自治体が公営企業公庫から借りた資金は繰り上げ償還すると、少なからぬペナルティが取られる。地下鉄の経常利益は実質50億円ほどだが、繰り上げ償還できないためにこれに匹敵する金利コストが余計にかかっている。

 以上はほんのささやかな例だが、国は企業や国民だけでなく、自治体をも過剰な規制で縛っている。いわば「官官規制」である。この損失は多大であり、改革の盲点とも言うべきものだ。

分権改革と官官規制改革は別

 こういう話をすると、国から地方への権限委譲のことだろうと誤解する向きがあるがそうではない。委譲といった問題ではなく、そもそも国が関与する必要がないところから国が撤退すべきという話である。

 たとえば指定管理者制度というものがある。地方自治法では公の施設について従来は、直営か外郭団体以外は経営できなかった。それが改正されて、議会が議決で「指定」した民間事業者ならば「管理」の主体になってもよいという制度になった。これは一般的には規制緩和と考えられているが、よく考えると、なぜ国がここで関与する必要があるのか。

 企業だって中央省庁だって、施設管理の外注をする際にいちいち株主総会や国会の議決を必要としない。なのに指定管理者制度では、地方自治法が議会の議決を要求している。また、その他の委託の決め事が細かくガイドラインで決められ、総務省が自治体を指導している。

 どうみても、やりすぎではないか。そもそも「公の施設」といった概念をすべての自治体に押し付けること自体が時代遅れである。公の施設だとか指定管理者制度は、そもそも規定そのものを廃止するべきだ。業務委託の基準などは各自治体がそれぞれ勝手に決めれば事足りるはずではないか。

 この例は典型的な官官規制だが、そもそも地方自治法の規定の多くが自治体に対する過剰規制である。自治体は多様であり、全国一律の基準で縛る必要はない。国とのやり取りが発生する事項、あるいは国民すべてにとって重要な事項のサービス水準などについては、一律の官官規制の必要があるかもしれないが、その他は規定を撤廃すべきだろう。

規制法規の条例化を

 この意味でさらに話を広げると、国の規制緩和についても規制改革会議で条項を細かく見直すよりも、いっそ法律を廃止して自治体の条例に変えていったらどうか。法律としては廃止し、そのうえで必要なら地方議会で条例として残していけばよい。自治体は国民の生活に身近であり、社会的弱者にとっては最後の保護シェルターである(生活保護など)。その動きを柔軟にすることで、福祉も教育もかなり生産性が上がるのではないか。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一
慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。大阪府・市特別顧問、新潟市都市政策研究所長も務める。専門は経営改革、地域経営。2012年9月に『公共経営の再構築 ~大阪から日本を変える』を発刊。ほかに『自治体改革の突破口』、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』、『行政の解体と再生』、『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。