PR

組織変革の手法をパターン化

 企業システムを開発する際、プロジェクト管理の理論通りに計画し、各メンバーに指示を出してもうまくいかないことが多い。その原因の一つは、システム開発は機械ではなく人間が行うものである、という当たり前のことに対する配慮に欠けていることである。

 本書にもあるように、「ほとんどの場合、まず感情で決定し、証拠を用いて決定を正当化する」のが人間であり、感情の動物とされる人間の集合体が組織や企業である。本書では、新しいアイデアを導入することに成功した数多くの組織において繰り返し用いられた手法をパターンとしてまとめている。

 このようなパターンの集合は「パターンランゲージ」と呼ばれ、建築業界において1977年に提唱された。建築業界では、人間が「心地よい」と感じる環境をパターン化し、それらを設計に適用することによって住みやすい建築物や秩序のある街作りを実現するという試みがなされている。

 本書には、仲間への勇気づけ、チームのモチベーション向上、といった小さな範囲から、企業変革のような大きな目標に適用可能なものまで、種々のシーンで使える48のパターンが納められている。単にパターンを列挙しているのではなく、組織変革におけるパターンランゲージの重要性についての解説や実例紹介もあり、パターンランゲージの価値を容易に理解できる。

 本書のタイトルには、「アジャイルに効く」とある。これは「アジャイル開発の場合に効く」という意味ではなく、失敗を恐れずに変化に適応するアジャイルな(俊敏な)心構えで継続的に変革を起こすべき、という監訳者の思いを表している。つまり、本書で述べられた手法は、あらゆる種類の開発プロジェクトに適用でき、システム運用やユーザーサポートなど開発以外の業務にも適用可能だ。もちろん、業務改革などの非IT領域にも適用できる。

 所属組織や関係企業に対して愚痴を言ったり批判・評論をしたりしていても、何も状況は変わらない。少しでも変革意欲がある人には必読書であり、48パターンの中で自分に響いたものだけを利用しても十分に価値がある。

 評者 甲元 宏明(こうもと・ひろあき)
大手製造業でシステム開発やIT戦略立案に携わり、2007年アイ・ティ・アール入社。シニア・アナリストとしてユーザー企業やITベンダーの戦略立案を指南する。
アジャイルに効くアイデアを組織に広めるための48のパターン

アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン
マリリン・マンズ/リンダ・ライジング 著
川口 恭伸 監訳
木村 卓央/高江洲 睦/高橋 一貴/中込 大祐/安井 力/山口 鉄平/角 征典 訳
丸善出版発行
2700円(税込)