PR

 もう一つのキーワードが「資産のジレンマ」です。

 前述した「不可逆性」は必ずしも悪いことばかりではありません。例えば人間が成長する過程も不可逆です。基本的に身長が伸びるとか、知識や経験を身につけていくということは、後戻りはないからです。

 それではなぜこの不可逆性が問題になるかと言えば、ある時点を境にこれが正の影響から負の影響へと転じるからです。成長段階ではよかれと思って蓄積していったものが、ある段階からそれが負の遺産へと変化していくのです。

 「人間の成長」の例でも、ある段階を超えた後の栄養は「メタボ」となって負の影響が大きくなっていきます。知識や経験という「知的資産」も、あるところまでは身につけるに越したことはなくても、新しいことを学ばなければならなくなったときにはそれがむしろ負の効果となってきます。

 たとえば専用ワープロの達人はPCワープロソフトへの適応が遅くなったり、さらにスマートフォンへの対応は「ガラケー」を使いこなしている人よりむしろ何も知らない人の方が早くできたりするというのがその一例です。

 組織においても一つの時代の技術やインフラに合わせた仕事のやり方に最適化されてしまうと、むしろ次の技術やインフラに合わせるのがゼロベースで作られた組織に比べて適応しづらくなるというジレンマがあります。

 次回は「二つのキーワード」のうちの「会社の不可逆性」を取り上げて、さらにその具体的症状と発生のメカニズムを解明していきます。

細谷 功(ほそや いさお)
ビジネスコンサルタント
 1964年神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ等の米仏日系コンサルティング会社にてコンサルティングに従事。専門領域は、製品開発や営業等の戦略策定や業務/IT改革等。最近は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で多数実施。著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『会社の老化は止められない――未来を開くための組織不可逆論』(亜紀書房)等。