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 この新しいモバイルの普及のためにはコストとファッション性の二つの課題をクリアしなければなりません。すでにIT系企業を中心に製品化を進めているようですが、むしろITとは全くの異業種である衣料品業界のユニクロやH&Mといったビックプレーヤーがhitoeを使ったウエアラブルに参入したら面白くなると考えています。賛否はありますが、彼らは“着る”という体験においてユーザーエクスペリエンスの設計に常に成功してきた企業だからです。

モバイルに関する筆者の個人的な想い

 新たなモバイルのカタチとしてドコモは、愛犬家向けに「ペットフィット」というサービスをスタートさせました。3G通信機能のデバイスをペットに付けることで運動量や睡眠時間などのデータをクラウド上で管理して、飼い主がスマートフォンから愛犬の状態を確認できるものです。迷子になっても安心なGPS(全地球測位システム)機能まで実装しています。

 愛犬家にも疑問を持つ人がいるサービスですが、魅力を感じる人もいます。筆者の母は確実にその1人です。母にとって、家族である老犬の健康管理は非常に重要です。ペットショップに預けた旅先はもちろん、ちょっとした外出時でも家に残した愛犬のことが気になって仕方ない母にとって価値のあるテクノロジーとなるでしょう。

 もう1人、筆者がペットフィットの情報を知って思い浮かべたのが、亡くなった父でした。父は健脚を誇る痴呆症患者でした。昼夜関係なく、わずかにでも目を離すと姿を消してしまう父は、数分後に見つかるときもあれば、2日後に信じられない遠方で保護される時もありました。そのたびに、家族や親戚、父の友人たちが懸命に行方を追いました。恥ずかしながら仕事中、携帯電話へ母から着信があると一瞬の躊躇をするようになりました。

 徘徊老人の対策に関しては、いろいろと調べました。想像としてGPSを使った追跡機能のあるデバイスがあるのではないかとも考えました。しかし当時のテクノロジーで可能だったはずの、徘徊老人向けサービスは存在していませんでした。筆者はかなり高額でも購入していたでしょう。同様のニーズは日本で多くあったはずです。しかしさまざまな事情からマーケット・インは見送られたのでしょう。

 現在も、モバイルの似たような機能を提供できるサービスを知るたびに、テクノロジーとウォンツについて考えます。

 余分な機能、過剰なテクノロジーと言われるものも、誰かにとっては必要な機能、すなわち“価値あるテクノロジー”になるのではないかと考えます。しかしそれは必要としている生活者に正しくコミュニケーションすることによって、初めて生まれる価値です。人間は欲張りな生き物です。私たちのウォンツを本当に満たすテクノロジーは、いつになっても実現出来ないのかもしれません。それでも「技術よりも先に人と向き合う開発者」がいれば、世の中のQOLは向上していくと信じます。

福嶋 拓郎(ふくしま たくろう)
NTTアド コミュニケーションプランナー
福嶋 拓郎(ふくしま たくろう)1973年生まれ。広告会社でのアートディレクターから、医薬品流通企業のマーケティング部で宣伝・ブランド担当を経て、NTTのハウスエージェンシーであるNTTアドへ。グループ各社のデジタル領域でのコミュニケーションを中心とした施策の戦略立案責任者。専門はソーシャルメディアおよびコンテクストマーケティング。